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アナリストコラム

イタリア政府が破産する可能性を考える-客員エコノミスト 〜塚崎公義-

2020年05月15日

■イタリア経済が新型コロナで痛んでいる
■イタリアの財政も痛むだろう
■投資家がイタリア政府の破産を予想するかも
■自国通貨建てのイタリア国債でもデフォルトするかも
■ユーロ圏諸国が助けるとは思うが・・・

(本文)
本稿は、金融危機に関するシリーズの第7回である。金融危機に関する全体像については第1回の拙稿「金融危機は繰り返す」(3月23日付レポートまたは https://www.tiw.jp/investment/analyst_column/post_704/)をご参照いただきたい。
なお、本シリーズはリスクシナリオであり、筆者の予測ではない。過度な懸念を持たずに、落ち着いてお読みいただければ幸いである。


■イタリア経済が新型コロナで痛んでいる
イタリアで、新型コロナが大流行している。人々の移動が厳しく制限されるなどの措置がとられている事を考えると、経済活動に大きな支障が出ているに違いない。

周辺諸国にも流行が広がっているので、イタリアの流行が仮に封じ込められたとしても、人々の移動が自由になり経済活動が元に戻るまでには時間を要するだろう。

■イタリアの財政も痛むだろう
そうなれば、イタリアの財政も相当痛むはずである。人々の所得や消費が減ると税収が減る一方で、景気対策に莫大なコストがかかる事が予想されるからである。

筆者はイタリアの経済や財政に関してはほぼ何も知らないが、ユーロ圏の一員であるイタリアの経済が仮に新型コロナで極めて深刻な打撃を被ったとしたら、イタリアの国債がデフォルトする可能性があるのか否かを、理屈で考えてみたい。

■投資家がイタリア政府の破産を予想するかも
イタリア政府が破産するか否かは、「投資家がイタリア政府の国債を購入するか否か」が勝負である。投資家がイタリア政府の破産を予想しないのであれば、イタリアは必要な資金を国債発行で賄うことが出来るため、破産する事は無いはずだからである。

しかし、投資家がイタリア政府の破産を予想して、イタリア国債を購入しなくなれば、イタリア政府は必要な資金が調達出来なくなり、破産してしまう可能性が高くなる。

高い金利を払えば借金をする事が出来るかもしれないが、そうなると投資家たちが「イタリア政府は、あんな高金利を払わないと借金できないほど危ないのか」「あんな高金利の借金をしたら、利払い負担だけで財政赤字が拡大し、一層破産の可能性が高まるだろう」と考えて、一層慎重化するかもしれない。

投資家たちがイタリア政府の破産を予想すると、イタリア国債の相場が暴落する。そうなると、イタリア国債を大量に持っているイタリアの銀行が自己資本不足に陥り、自己資本比率規制に従うために貸し渋りを余儀なくされ、イタリアの景気が更に悪化する、それによってイタリア政府の税収が一層減少する、といった悪循環も生じかねない。

■自国通貨建てのイタリア国債でもデフォルトするかも
拙稿「日本の財政は破綻しない( https://www.tiw.jp/investment/analyst_column/post_688/ ) 」では、日本の財政が破綻しない理由として以下を挙げた。

・「日銀に紙幣を印刷させれば」等々は禁じ手と考える
・日本人投資家が買うから日本政府は安泰
・少子化で、数千年すれば政府の借金は消滅するかも
・10年待てば気楽に増税できる時代が来る
・国債が暴落しても政府が倒産するわけではない

これとの対比で考えると、イタリアの場合にはデフォルトもあり得そうだ。

まず、ユーロの紙幣をイタリア中銀が勝手に印刷する事は出来ない。日本の場合には最後の手段として採り得るが、イタリアの場合は他のユーロ圏諸国の賛同が必要であり、他国が許す事は決して無いだろう。

日本人投資家は、為替リスクの無い投資対象の中では消去法的に日本国債を選ばざるを得ない。しかし、イタリア人投資家にとっては、為替リスク無しにイタリア国債より安全な他国の国債を購入する選択肢があるので、イタリア国債を買わなければならない理由は無い。

日本は対外純資産がプラスであるが、イタリアはマイナスである。という事は、万が一外国の債権者全員が不安になって一斉にイタリア向けの債権を回収しようとすれば、イタリアの官民が総がかりでも返済できない可能性がある、という事である。日本は民間部門が資金を持っているので、政府が民間から借りるか増税する事によって外国の債権者に返済する事が可能であるが、イタリアの場合には民間も政府も外国から借金返済を迫られるので、日本とは違うのである。

10年待てば気楽に増税できるようになる、という事は言えるかも知れないが、それまでの間に破産する可能性は否定できない。

国債大暴落の際、日本では「外貨準備を高値で売却して暴落した国債を買い戻す」ことが出来るが、イタリアの外貨準備は国債暴落時でも高値で売却する事が出来ないので、日本のような大逆転は起きないのである。

■ユーロ圏諸国が助けるとは思うが・・・
イタリアが本当に破産したら欧州経済は大混乱するであろうから、ユーロ圏諸国が何とか助けるだろう、という期待は持てるだろう。そうなるという保証は無いが、そうなると期待しよう。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。


(4月13日発行レポートから転載)


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