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アナリストコラム

中国経済が大混乱してもリーマン・ショックは来ない -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2020年03月27日

■リスクシナリオとしての中国経済大混乱を考える
■リーマン・ショックは倒産と金融収縮だった
■対中輸出は減るだろうが、対米迂回輸出は残る
■ドルは基軸通貨で人民元はローカル通貨
■部品会社の倒産はメーカーが支援すると期待
■日本経済の景気変動が小さくなっている事にも要注目

(本文)
本稿は、リスクシナリオとして中国経済が大混乱した場合の日本経済への影響を考えるものである。筆者がメインシナリオとして大混乱を予想しているわけではなく、あくまでリスクシナリオである。

また本稿は、世界でも日本でも今後の流行は比較的抑制されたものであり、半年程度で概ね収束する、との前提に立つものである。日本で大流行して東京が「封鎖」されるような事態は念頭に置いていない。

■リスクシナリオとしての中国経済大混乱を考える
中国では、人の流れが止まり、消費が落ち込み、生産も落ち込んでいるだろうから、資金繰りに窮して倒産する企業が多発するだろう。景気が悪化する事は避けられない。

問題は、それが金融危機に発展するか否かである。悪くすると、倒産の増加で銀行の不良債権が増加し、銀行が大幅赤字となって倒産するかも知れない。そこまで行かなくても、銀行がお互いに疑心暗鬼になり、銀行相互の資金貸借が止まってしまうかも知れない。そうなると、資金不足から貸出を絞らざるを得ない銀行が出てくるだろう。

資金不足に陥っていない銀行でも、資金不足に陥る可能性を懸念して「貸出を回収して金庫に札束を積み上げておく」かも知れない。あるいは、銀行が自己資本の減少から貸出を絞るかも知れず、あるいは倒産件数の増加に恐怖を感じて貸出に慎重になるかも知れない。信用収縮である。

銀行が貸出に慎重になると、給料を払う金や材料を仕入れる金が足りずに倒産する会社が増えるかも知れない。住宅ローンを借りられなくて家を建てる人が減るかも知れない。こうして需要面も供給面も打撃を受けることとなりかねない。

金融は経済の血液である、と言われる。普段は存在さえ気にしていないが、止まってみると如何に重要な働きをしているのかがわかる、というわけである。

■リーマン・ショックは倒産と信用収縮だった
リーマン・ショックの時に米国で発生したのは、まさに倒産の激増と信用の収縮であった。

米国の輸入は巨額であるから、これが景気悪化で激減すると世界経済に与える影響は甚大なものであった。世界の基軸通貨である米ドルで信用収縮が発生したので、途上国から資金が引き揚げられ、途上国がドル不足で混乱した。こうして世界経済が不況になり、日本の輸出が激減し、日本の景気も大打撃を被ったのである。

日本との関係で言えば、米国の景気悪化が米国の金融緩和を通じてドル安円高をもたらした事も大きかった。輸出企業は需要不足による数量減とドル安円高による為替差損をダブルパンチで喰らい、大規模なリストラを余儀なくされたのである。

■対中輸出は減るだろうが、対米迂回輸出は残る
中国で仮に同じ事が起きたとすると、日本の対中輸出は激減するだろうから、日本経済への打撃は大きいだろう。しかし、対中輸出の中には「中国が米国等に輸出している品物の部品」等々も相当多いはずで、その分は中国の景気に左右されないだろうから、米国のリーマン・ショックの時よりは影響は小さいだろう。

■ドルは基軸通貨で人民元はローカル通貨
米ドルは基軸通貨で世界中の投資や融資に使われているため、米ドルで信用収縮が発生すると世界が困る。一方で人民元は、ほぼ中国国内でしか流通していないだろうから、人民元で信用収縮が発生しても、困るのは中国経済だけであろう。

中国が景気悪化にともなって金融を緩和しても、人民元安になるとは限らないし、なったとしても対中輸出に影響するだけであって、米ドル安が日本の輸出全体に影響したのとは異なるだろう。

■部品会社の倒産はメーカーが支援すると期待
中国の部品メーカーが大量に倒産し、それを用いている日本の製造業が生産出来ずに困る、という事が起きると大変である。

もっとも、日本の製造業としては、そうした部品メーカーの資金繰りは必死で支援して倒産しないように努めるはずである。加えて、代替できる部品を中国の外で探す努力も当然行われているはずであるから、影響は限定的だと信じよう。

■日本経済の景気変動が小さくなっている事にも要注目
そもそも少子高齢化によって日本経済の景気変動が小さくなっている、という事も重要である。

少子高齢化による労働力不足で、製造業をリストラされた人が次の仕事を見つける事が容易になっている。リーマン・ショック当時は「リストラされて収入が無いから消費出来ない」という人が大量に発生して個人消費を減少させたが、今回はそうした影響は小さいはずである。

もう一つ、高齢者の所得と消費は安定しているので、消費者に占める高齢者の比率が高まると、消費は安定する。高齢者の消費だけではない。高齢者向けのサービスに従事している労働者の所得と消費も安定しているのである。

極端な話、現役世代が全員で高齢者の介護をしている経済では、景気の変動は皆無であろう。もちろん、それは極端すぎるが、リーマン・ショック後の日本経済がそちらの方向に向かって少しずつ進んで来た事は疑いなかろう。

この点については、拙稿「少子高齢化で日本の景気変動が小さくなる理由 https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/115744」をご参照いただきたい。 

(3月11日発行レポートから転載)


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