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アナリストコラム

円安が株価に良い理由 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2018年09月07日

 (要旨)
・円安は景気に良いとは限らない
・上場企業は大手輸出企業が多い
・輸入価格上昇は消費者に転嫁する
・海外子会社の利益は景気と無関係
・ポートフォリオ・リバランスも株高要因
・美人投票だから円安で人々が株を買う
・因果関係ではない可能性には要注意(米国景気、リスクオン)

(本文)
・円安は景気に良いとは限らない
前回記したように、最近は円安が景気に良いとは限らないようだ。かつては「円高だと輸出数量が激減して景気は悪化し、円安だと輸出数量が激増して景気が回復する」と言われていたが、最近は円安でも輸出数量が増えず、輸入数量が減らないため、為替レートが景気に及ぼす影響は限定的になってきたようだ。
それにもかかわらず、円安になると株価が上がると言われているのはなぜであろうか。以下、理由を考えてみたい。

・上場企業は大手輸出企業が多い
日本の輸出と輸入は大体同金額であるから、輸出企業がドルを高く売れて儲かった分と、輸入企業がドルを高く買わされて損をした分が、日本全体としては大体同じである。しかし、上場企業は大手輸出企業が多いので、輸出企業が高く売れて儲かった分は上場企業の利益に貢献する一方で、輸入企業が高く買わされて損をした分は上場企業の利益をそれほど損なわない。
したがって、差し引きすると円安で「日本経済全体としての損得は大体ゼロだが、上場企業だけを見ると利益は大幅に増える」ことになり、円安は株高要因なのである。

・輸入価格上昇は消費者に転嫁する
ドル高による輸入価格の上昇は、一部は非上場企業が負担するが、多くは消費者に転嫁されるため、景気の悪化要因となる。
つまり、輸出企業の利益は株高要因となり、輸入企業の損失は消費者に転嫁されて景気悪化要因となるので、景気と株価が乖離するのである。

・海外子会社の利益は景気と無関係
円安になると、海外子会社の利益が円換算で膨らみ、親会社の連結決算が好転し、株高要因となる。しかし、海外子会社の利益は国内の景気とは関係ないから、景気と株価が乖離する。
上場企業が海外に保有する資産の価値も、円建て換算で増加する。それがただちに上場企業の決算に影響するとは限らないが、潜在的には上場企業の解散価値の増加等を通じて株価にプラスの影響をもたらしている筈である。これも、景気と株価の乖離の原因である。

・ポートフォリオ・リバランスも株高要因
国際分散投資を行なっている投資家にとってみると、円安になるとポートフォリオに占める海外株のウエイトが大きくなりすぎるので、海外株を売却して国内株を買い増す事になる。
それにより、国内株の買い注文が増えて株価が上昇するが、それは国内景気とは関係ないので、これも景気と株価の乖離の原因となる。

・美人投票だから円安で人々が株を買う
株価の世界は美人投票の世界であるから、投資家が「円安なら株高になるだろうから、今のうちに株を買おう」と考えて買い注文を出すと、実際に株価が上昇することになる。
投資家が株高を予想する理由はなんであっても構わない。上記のような理屈かもしれないし、「これまで円安時には株が値上がりしたから、今回も値上がりするだろう」といった事かも知れないが、とにかく投資家たちが株高を予想して株の買い注文を出す事が重要なのである。
これも、景気と株価は乖離する原因となる。

・因果関係ではない可能性には要注意(米国景気、リスクオン)
上記は、円安が原因となって株価が上昇するメカニズムであった。しかし、「円安が必ずしも株高の原因とは言えないが、現象だけ見ると円安と株高が同時に進行する」、という場合も少なくない。その理由としてあり得るのが米国景気拡大、投資家のリスクオンである。
米国の景気が拡大すると、日本の対米輸出が増えて日本の景気が拡大し、日本企業の収益が改善して株価が上昇する。一方で、米国が金融緩和を止めるために米国の金利が上昇し、日米金利差が拡大してドル高円安になる。
この場合、現象だけを見ていると、円安と株高が同時に進行しているが、米国の景気拡大という親がいて、株価上昇と円安という子がいて、両者は兄弟だから似ている、という事になる。因果関係ではない相関関係である。
今ひとつ、投資家たちの「リスクオン」も同様である。ちなみにリスクオンとは、「多少リスクをとっても良いから儲けを狙いに行きたい、という博打モードな投資家の気分」のことである。
日本人投資家がリスクオンになると、彼らは株価値下がりのリスクを気にせずに株高による利益を狙って株を買う。また、彼らはドル安のリスクを気にせず高い金利収入やドル高による為替差益を狙って米国債を買う。その結果、株価が上昇し、ドル高になる。
これも、投資家たちのリスクオンが親であり、株高と円安が兄弟の相関関係である。

(9月3日発行レポートから転載)


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