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アナリストコラム

ゼロ金利とゼロ成長で縮む銀行のビジネス-客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2018年06月08日

(要旨)
・ゼロ金利で預金部門のコストが赤字に
・ゼロ成長で銀行の貸出残高は縮小
・マイナス金利で貸出競争が激化
・手数料ビジネスには金融庁が難癖
・長期的にはフィンテックなどとの競合も
・地銀の合併は独占の弊害より過当競争抑制のメリットが大

(本文)
銀行が苦戦している。発表された決算を見ると、株式の売却益などで表面を取り繕っている銀行もあるが、本業である「預金を集めて貸出をして利ざやを稼ぐビジネス」はどこの銀行も苦悩しているようだ。

・ゼロ金利で預金部門のコストが赤字に
銀行は、預金で集めた資金を貸し出して、利鞘を稼ぐのが本業である。多くの銀行では部門別の損益を計算しているが、預金部門が集めた資金を経理部に市場金利で貸し、融資部門が融資に必要な資金を経理部から市場金利で借りる、という計算がなされている模様である。

現在のように、市場金利がゼロ(実際には小幅マイナス)だと、預金部門はコスト分だけ赤字になってしまう。つまり、今期の決算の事だけを考えれば、預金部門は不要なのである。融資部門が必用な資金は他行から金利ゼロで借りて来れば良いのだから。

実際には預金部門を解散した銀行の話は聞かないが、それは「将来、市場金利が上昇した時に、あらためて預金部門を設置しても、預金は簡単には集まらないから」という事であろう。そうなると、ゼロ金利が続く間は銀行の預金部門はコスト分だけ赤字を垂れ流し続ける事になる。

・ゼロ成長で銀行の貸出残高は縮小
普通の企業にとって、ゼロ成長は「前年なみの生産、前年並みの売り上げ、前年並みの利益」を意味するが、銀行にとってゼロ成長は「前年以下の融資残高」を意味するのである。

借り手企業は、ゼロ成長だと新しい工場が必要ないので、既存の工場の建て替えのみを行う。そのための資金は、毎年の減価償却を積み立てておくことで賄えるので、新たな借金は不要である。そうなると、借り手企業の毎年の利益(税、配当支払後)は、銀行借入の返済に用いられることになるので、銀行の融資残高は減少してしまうのである。

・マイナス金利で貸出競争が激化
ゼロ成長で融資残高が減ってしまうのを補おうと、銀行は貸出金利を下げる。ライバルから顧客を奪おうとするのである。それに加えて、マイナス金利も銀行の貸出金利引き下げのインセンティブとなる。集まってしまった預金を日銀に預金しても他行に貸しても金利をとられるし、金庫に保管しようにも巨大金庫を購入するにはコストがかかるので、そんな事なら金利を下げてでも貸出を増やした方がマシだ、と考えるからである。

もっとも、金利を下げても融資は増えない。ライバル行も同じことを考えて金利を下げるからである。日本全体の借り手の資金需要は、日本中の銀行が金利を下げても、それほど増えない。「金利が下がったから設備投資をしよう」という会社は少ないし、他の競合する業界から客を奪ってくる事も難しい。牛丼業界では値下げ競争によってラーメン店から客を奪って来る事が出来るが、銀行業界はそうでは無いので。

・手数料ビジネスには金融庁が難癖
利鞘で稼げないなら、ということで、銀行は投資信託等の販売手数料で稼ごうとしているが、それに対しては金融庁が顧客本位を強く要請して来ているため、各行ともシュリンクしている模様である。

そもそも自動車販売業界の監督官庁が「自動車の販売にあたっては、顧客本位で」などと指導するだろうか。タバコ販売店の監督官庁が「顧客の健康を考えて」などと指導するだろうか。なぜ金融庁だけが、そうした指導をするのか、筆者ははなはだ疑問であるが、事実は事実として監督官庁が金融業界を苦しめている事は間違いない。

一般に監督官庁は、業界を監督しながら業界の健全な発展をサポートするものであるが、金融庁には業界の健全な発展という視点が足りないように筆者には思えてならない。本題と関係ないので、詳述は避けるが(笑)。

・長期的にはフィンテックなどとの競合も
筆者はフィンテックなどには詳しく無いが、長期的には銀行ビジネスの強力なライバルになるとも言われている。筆者の想像では、キャッシュレスな社会になると、誰が何処で何を買ったかという情報が蓄積されてくる。すると、販売店の売り上げ等々が正確に把握されるので、「販売店に融資を行っても大丈夫か」という判断を取引銀行ではなく支払い手段の保有者(たとえば電子マネーの運営会社)が持つことになるはずである。

銀行は、顧客との親密な関係を保つことで顧客の情報を蓄積し、それを融資の判断に利用しているわけであるが、その事が競争力の源泉ではなくなるかもしれない、という事である。将来の話ではあるが、銀行にとって明るい話ではない。

・地銀の合併は独占の弊害より過当競争抑制のメリットが大
上記のような諸般の情勢を考えると、地銀は合併して規模の利益を追求するとともに、過当競争的な貸出競争を控えるべきだと、筆者は考えている。公正取引委会は、同一県内の合併によって融資シェアが高くなりすぎる場合には合併を認めない、という姿勢であるが、これは疑問である。

地銀が合併して県内のシェアが高くなったからと言って、独占利潤が謳歌できるような経済状態では無いからである。仮に独占地銀が高い金利を要求すれば、貸出先の減少に悩んでいる信金や隣県地銀やメガバンクなどが融資攻勢をかけて来るであろう。独占地銀とは言え、せいぜい適正利潤を僅かに上回る程度の利益しか得られないはずである。

将来、設備投資が盛り上がり、資金需要が盛り上がり、独占地銀が独占利潤を謳歌できるような時代がくるかも知れない。その時は、素直に喜ぼう。「日本経済も、ここまで来たか。独占利潤を銀行に払ってまで借金をして設備投資をしたがる企業が数多くあるなんて、感無量だ」と。

一方で、このままゼロ金利とゼロ成長が続き、貸出金利引下げ競争が続いて地銀が疲弊した場合には、地銀の自己資本が減少し、自己資本比率規制によって地銀が貸出を絞らなければならない時代が来るかも知れない。

金融は経済の血液である。金融機関が衰弱して金融仲介機能が滞るようだと、実体経済に大きな悪影響が出かねない。1行だけが衰弱するならば、他行が貸せばよいので問題ないが、日本中の地銀が衰弱したりすれば大ごとだ。

公正取引委員会は、表面的な融資シェアだけを見るのではなく、こうした事も考えたうえで、賢明な判断をしていただきたい。

(6月4日発行レポートから転載)

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