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アナリストコラム

労働力不足が主婦の労働を減らす「130万円の壁」の恐怖 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授

2018年02月09日

 (要旨)
・「103万円の壁」は原則としては気にならず
・サラリーマンの専業主婦は「130万円の壁」を越えると手取りが減少
・労働力不足が労働力の供給を減らしてしまう恐怖
・本来はサラリーマンの専業主婦の優遇を撤廃すべき

(本文)
・「103万円の壁」は原則としては気にならず
「103万円の壁」「130万円の壁」という言葉を聞いた事がある人は多いはずだ。サラリーマンの専業主婦が働いて一定以上の収入を得ると、専業主婦と認められなくなり、特権を得られなくなるため、その境界線に達する直前に働くのをやめる、というものだ。

103万円の壁というのは、夫であるサラリーマンが所得税の計算の際に配偶者控除を受けられるか否かの判断基準が妻の年収103万円であることから、妻のパート収入を103万円以内に抑える妻が多かった事を指している。

今年から、103万円が150万円に変更されたため、これを気にする人は減ったと思われるが、そもそも103万円は気にする必用が無かったという事を指摘しておきたい。103万円を越えると夫は配偶者控除を受けられなくなるが、代わりに配偶者特別控除を受けられるようになるため、「103万円を少しだけ超えたら夫婦合計の手取りが激減する」と言った事は無かったのである。その意味では、「103万円の坂」を「壁」と勘違いしていた人が多かったという事であろう。

もっとも、夫の勤務先が配偶者手当を支給するか否かの判断基準を年収103万円にしていた企業は多かったと思われ、そうした企業が今でも103万円を判断基準にしているとすれば、それは紛れもない「壁」であろうし、今でも多くの専業主婦が気にしているのかも知れない。

・サラリーマンの専業主婦は130万円の壁を越えると手取りが減少
夫の配偶者控除が103万円の壁から150万円の壁になった事で、大いに注目されるようになったのが130万円の壁であろう。こちらは、夫の所得税ではなく、専業主婦自身の手取りを直撃する話である。

サラリーマンの専業主婦は社会保険料を支払わなくてよいのだが、年収が130万円(一定の条件を満たした場合には106万円、以下同様)を超えると、専業主婦とは見なされず、自分で社会保険料(年金保険料、健康保険料、および年齢によっては介護保険料)を支払う必用が出てくるのである。そうなると、手取りが大幅に減ってしまうので、収入が130万円を超えないように働く時間を調節する主婦が多いのである。

筆者は、いっそうのこと年収200万円くらい稼げば、手取りも増えるし老後の年金の面でも安心だ、と主張しているが、人それぞれ様々な事情があるだろうから、だれでも200万円稼げるわけではないので、130万円の壁が問題になるのだ。

・労働力不足が労働力の供給を減らしてしまう恐怖
普通は、需要が増えると価格が上がり、供給が増えるので、以前よりも多い数量で新しい均衡になる。しかし、専業主婦の非正規労働については、景気が回復して雇いたい会社が増えると、需要と供給の関係で労働力の価格である時給が上がり、そうなると以前より短い時間で年収130万円の壁に達してしまうのである。つまり、専業主婦のパート労働の時間が以前より短くなってしまうわけだ。

需要が増えると供給が減る、という恐ろしい事が起きるのが、専業主婦のパート労働の世界なのである。これを止めるためには、130万円の壁を撤去しなければならない。

たとえば、年収が100万円を超えると少額の社会保険料を徴求され、年収が160万円に達するまで少しずつ増額され、160万円で満額に達するといった制度にすれば、「年収が増えると手取りが減る」という事が起きないので、誰も社会保険料を気にせず、働きたいだけ働くことになろう。「130万円の壁」を「130万円近辺の坂」に変えるのである。

・本来はサラリーマンの専業主婦の優遇を撤廃すべき
大きな話になるが、そもそもサラリーマンの専業主婦が社会保険料を免除されている事自体が問題である。自営業者の専業主婦も失業者の専業主婦も原則として社会保険料の納付義務があるのだから、公平を欠いている。サラリーマンの専業主婦が、夫が失業した途端に社会保険料の支払い義務が生じるというのは、制度として問題である。離婚してシングルマザーになった場合も同様である。

夫婦ともにサラリーマンである共働き世帯との均衡も欠いている。しかも、サラリーマンの専業主婦に働かないインセンティブを与えている。これは女性の活躍を謳う政府の方針に逆行するものである。

容易ではないと思うが、是非とも制度自体を変更し、全員が社会保険料を支払うようにして欲しい。

P.S.
私企業の報酬体系に口を出すわけに行かないので、以下は筆者の独り言である。そもそも配偶者手当というもの自体がおかしい。独身男性と専業主婦を養っている男性が、同じように会社に来て同じように仕事をしている時、なぜ会社が払う金額が異なるのだ?給料は会社への貢献度合いに応じて払うべきだ!

配偶者手当が「103万円の壁」を残しているのだとしたら、更に問題だ。せめて「103万円近辺の坂」にして欲しい。


25日発行レポートから転載)


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