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アナリストコラム

増税するなら相続税か資産課税 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2017年10月06日

  (要旨)

・累進課税は正義か
・所得に加え、資産課税も強化すべき
・痛税感の小さい税なら相続税
・東京一極集中の緩和なら固定資産税


 (本文)

選挙前の常として、消費税率の引き上げが話題となっている。そこで今回は、増税について考えてみたい。
筆者は、財政再建を焦るべきではないと考えているし、「景気は税収という金の卵を産む鶏」だと考えているので、性急な増税には反対であるが、長期的な視点に立てば、いずれ増税は避けられないであろう。その時に、如何なる増税が「まだマシ」であるのかを考えていきたい。

・累進課税は正義か
政府の様々な機能を維持するための費用は、税金で集める必要がある。その税は「国民一人あたり○万円」というのが公平なのか、「所得の○%」というのが公平なのか、「高額所得者は高い税率(累進課税)」が公平なのか。現在の先進国では、累進課税が公平であるとされているので、本稿もそれに従おう。ちなみに、狭義の税制ではなく、社会保険制度等も含めた全体像で議論したい。
現状は、所得税のように累進課税のものと、消費税のように「消費額の○%」というものと、税金類似の国民年金保険料のように「一人あたり○万円」といったものが並存しているが、税体系全体としては累進課税的になっている。こうした累進性を高めるべきか低めるべきかは、様々な見解があり得るが、最近の変更は消費税率を引き上げる一方で軽減税率を導入したり、健康保険制度で高額所得者の負担を増やしたり、全体としての累進性を大きくは変えずに制度が複雑になる方向の改正が多いように思われる。
税制は簡素である事が望ましいとすれば、最近の税制改正は望ましく無い方向に向いているとも言えよう。
消費税の増税は、「現役世代だけではなく、高齢者にも負担を」という発想のようだが、これも疑わしい。消費税率が上がれば、消費者物価指数が上がる。そうなれば、消費者物価指数に連動して年金支給額も増加するので、高齢者は実質的にほとんど消費税率引き上げの影響を受けないからである。

・所得に加え、資産課税も強化すべき
今ひとつの問題は、「金持ちから税金を取る」という時に、高額所得者の事ばかり議論され、「10億円持っているが所得が無い高齢者」への課税を真剣に論じる人が少ない事であろう。所得と比べて資産が把握しにくい事が理由なのであろうが、マイナンバー制度も導入された事であるし、資産課税も強化していく必要があろう。
資産課税には、公平の観点からも期待がかかるが、今ひとつ「現役世代だけに税を負担させる」事が避けられる、というメリットも大きいであろう。

・痛税感の小さい税なら相続税
税制を考える際、重要な要素として痛税感がある。額に汗して働いて得た給料から税金を徴収されるのでは、痛税感が大きいし、勤労意欲にもマイナスとなりかねない。
一方で、最も痛税感が小さいのは相続税であろう。「もともと自分の金ではない」のだから、相続額が半分に減ったとしても、痛税感は殆どなく、棚ぼたが小さくなった悔しさ程度しか感じないであろう。
筆者が特に期待しているのは、配偶者と子と親のいない被相続人の財産である。現行の相続法では、兄弟姉妹が相続する事になっているが、これを全額(あるいは半額)相続税とするべきと考える。
被相続人は、子育て費用を負担していない一方で、生前受け取っていた年金は「他人の子が払った年金保険料」が原資である。それならば、遺った財産は、税金で徴収するのが痛税感の観点からも公平の観点からも望ましいのではなかろうか。少なくとも兄弟姉妹が相続するのと比べれば、遥かに望ましいであろう。
実際問題としても、最近は生涯独身の人や子のいない夫婦が増加しているから、数十年経てば、彼らの遺産が国庫に入り、巨額の財政収入となる事が期待される。単身の高齢者は、「100歳まで生きて老後資金が底を突いたらどうしよう」と考えているので、多額の資産を持ちながら質素に暮らし、実際には100歳まで生きずに他界するケースが多いからである。

・東京一極集中の緩和なら固定資産税
所得ではなく資産に課税するという場合、相続税以外で望ましいのは固定資産税であろう。法人が所有する不動産にも、当然課税する事になる。「固定資産税が払えずに住み慣れた家を手放す」人がいると可哀想なので、「固定資産税を2%支払う代わりに、国に当該土地の所有権(正確には共有持分権)を2%ずつ国に供出する。国は毎年2%ずつ土地の共有持分を獲得していき、50年後に完全に国の所有地になった時点で旧所有者は土地を国に明け渡す」といった選択肢も要検討であるが。
固定資産税を増税する事で、地価が高い大都市、特に東京に住む事の負担が増す、という効果が大きいと期待される。東京一極集中は、過密過疎といった弊害にとどまらず、巨大災害時のパニック等を考えても、早急な対策が必要であろう。人々は集積のメリットに魅せられて東京に集まるが、それにより巨大災害時のリスクが増しつつある事には気付かず、それを緩和するためのコストを負担もしていない。
少子化対策としても、固定資産税増税は有効であろう。東京は、最も子育てに向かない場所であるのに、全国の若者が東京に集まって来ている。個々の若者にとっては合理的な行動なのであろうが、日本全体の将来を考えれば、それは決して望ましい事では無い。そうであれば、東京を住みにくくし、地方を相対的に住みやすくすることで、流れを止める必要があろう。
「東京に住むな」という事は出来ないが、税制で誘導する事は可能である。あとは、東京にすむ人々、特に政治家がそれを望むか否か。容易ではないと思うが、期待したい。

(10月2日発行レポートから転載)


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