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アナリストコラム

株価急落とはいえ、あまり悲観的にはなれない自動車セクター – 高田 悟-

2015年08月28日

自動車セクターの株価は中国人民元切り下げ、上海株式市場暴落、中国景気への強い懸念などから市場全体の下落とともに、先週から今週初めにかけ急落した。16/3期1Q決算は概ね好決算であったにも関わらず、以降、セクター全般に株価はTOPIXをアンダーパフォーマンスしている。代表格のトヨタ株価は今週初めの急落時に今期会社予想の収益水準でPER9倍台前半まで下落した。中国金融当局の利下げで反発しているものの、PERはまだ10倍程度に止まる。中国景気の急減速、そしてとくに新興国や資源国への影響に懸念が強まっているのはわかるが、トヨタを中心に自動車株は売られ過ぎのように思われる。

最大の理由は高水準の利益を見込む(トヨタは営業過去最高益を予想)16/3期の各社利益計画の達成の可能性が消えたわけでは全くないということだ。1)比重が高い米国を中心とする北米の新車販売が好調を維持している。2)為替(ドル/円)が早くも1米ドル120円台に戻り、各社の計画前提を上回る円安水準で推移している。3)各社販売計画はそもそも新興国(とくに影響の大きいアセアン地域)需要が悪いとの前提で設定されており、足下で新興国の台数計画を下方修正した会社もある。4)日産を除けば各社の中国への販売依存はまださほど高くない。トヨタでも全体販売台数の1割強程度である。さらに、決算期のずれから今期の中国は半分が終わっており、仮に市場が急失速しても影響は限定的である。などによる。つまり、会社計画の下ぶれがなければ、今期収益予想に基づくPERはトヨタで言えば足下10倍程度で株価は割安ということになる。

また、来期以降の減益を懸念し市場がこれを織り込み始めたという見方もある。しかし、1)日系の販売の中心、米国新車市場はピークの1,740万台までにまだ距離がある。景気堅調、原油安、2.5億台弱の保有に対する買い替え需要、人口増、などを踏まえればピーク越えの可能性は十分ある。2)ロシアを除く欧州の市場の回復傾向が鮮明である。3)新興国には依然、自動車の普及、市場の伸び余地が大きい。例えば世界最大の中国の乗用車普及台数は1,000人当たり100台に満たないことなどを踏まえると現状は一時的な悪化に過ぎないと見方が妥当である。などを踏まえると来期の世界の自動車販売は前期を上回る可能性は十分あろう。加えて、景気や金利の方向感から円安/ドル高基調がそう簡単に崩れそうにないことなどから来期の自動車セクター業績を減益とみるのは余りに早計と言えまいか。

2008年10月のリーマンショックを挟み自動車セクターの株価は急落し、その後、長らく低迷した。当時は年約1,700万台の米国新車市場が1,000万台強に急減した。一瞬にして市場が消え在庫が膨らんだ。そして超円高になった。当時と今とは全く事情が異なる。世界第二位とはいえ、保有規模で最大、厚みのある米国市場が極めて堅調だ。リーマンショックの教訓、大震災やタイ洪水などの経験から需要急変への対応も進み設備能力が過剰になっているとも思えない。超円高への対応で体質強化も相当進んだ。その上での今の円安。以上を踏まえると中国リスクが台頭したからといって、自動車セクターの業績や株価見通しにさほど悲観的になる必要なないと思えるのだがいかがであろう。

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