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アナリストコラム

バリュー投資再考 その2 -林 茂-

2014年08月15日

7月18日のこの場で、ベンジャミン・グレアム(1894年~1976年)を始祖とするバリュー投資の考え方を概説しました。

彼の教えるところは以下の通りでした。即ち:
・証券(株式等)の時価はその「本質的価値」から常に乖離している
・時価と「本質的価値」との乖離は自律的に修正される
・バリューとは価値という意味。「資産のバリュー」と「収益力のバリュー」を正しく算出し、その価値に比べて時価総額が割安に評価されている証券(銘柄)を買う
・資産のバリューとは、「流動資産−負債総額」
・収益力のバリューとは、過去10年間のEPS(一株当たり純利益)の合計

その後、そのバリュー投資の考え方は綿々と受け継がれ更に洗練され、今ではモダン・バリュー投資という一つの投資手法として確立されています。現代のモダン・バリュー投資の第一人者は米コロンビア大学教授のブルース・グリーンウォルド氏です。彼が中心となってまとめた本、『バリュー投資入門(2002年、日本経済新聞社』(原題:Value Investing : from Graham to Buffet and Beyond、2001)がモダン・バリュー投資のバイブルとされています。

この本がモダン・バリュー投資の革新的な点として挙げている点は:
・資産のバリューに「再調達コスト」の概念を導入したこと
・「フランチャイズ(参入障壁)」にバリューを見出したこと
具体的に説明すると、フランチャイズに守られた企業が生み出す収益は、さらに資産以上の収益を生み出し、これを成長のバリューと定義しました。そしてフランチャイズ・バリューとは収益力のバリューのうち再調達コストを上回る部分の金額であるとしました。言い換えると、フランチャイズ・バリューと持っていない企業が行っている事業は常に新規参入者が参入することによって、競争にさらされることによって最終的には、持続的なキャッシュフローを生み出せなくなるとされます。

ここで、具体的に収益力のバリュー(EPV=Earning Power Value)の計算式を示します。

EPV=調整済み収益÷資本コスト=自己資本×ROE(自己資本利益率)÷資本コスト

この式が示唆することは:
・ROE>資本コストの場合のみ、その企業は価値を生み出す
・ROE<資本コストの場合は、その企業は自己資本を減らす(本質的価値を毀損する)

簡単に申し上げると、資本コストを上回るROE(自己資本利益率)を維持できない企業は、その企業価値を減少させていくということです。言い換えれば、そのような企業の株価は下落していくことになります。株価を上げることが可能な必要条件はROEが資本コストを上まっていることです。資本コストとは、企業が発行する株式に投資する投資家が、最低限期待(≒要求)するリターンということもできます。期待リターンとか割引率という呼び方もあります。

TIWでは毎週末、日経平均採用個別銘柄の一株当たり利益の予想値から、現在の日経平均株価に織り込まれている資本コストを算出しております。それは毎週火曜日に発行されるレポート「IFIS/TIWコンセンサス225」に掲載されております。8月8日時点の資本コスト(期待リターン、割引率)は7.46%となっております。我々は、ROEが最低でもこの資本コストを上まっている銘柄を中心にリサーチを行っております。

ROEと資本コストの関係に注目することは、銘柄選択において非常に重要な点であることがご理解頂けましたでしょうか。

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