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アナリストコラム

自動車株はまだ割安か、もう割高か -高田 悟-

2014年07月04日

日系完成車メーカー8社(商用車と二輪を除く)の内6社(注)が終わった14/3期に営業利益過去最高を更新した。12年末の第2次安部政権発足後、円安進行の追い風もあり、業績向上への期待から自動車株は上昇。多少のばらつきはあれ各社株価水準を大きく切り上げた。そして、市場の期待どおりに前期において業績は大幅に改善した。足元の株価を見ると、大幅に上昇したとはいえ、代表選手のトヨタはまだ最高値まで距離がある。しかし、中には史上最高値を更新し堅調な株価推移が続く会社もある。さて、自動車株はまだ割安で投資妙味があるのか。上がりきってしまいもう割高なのか。

答えはただ一つ。今後も収益拡大が続くかにかかる。難しい株価指標面の話はここでは敢えて行わないが、成長が見込めるなら、株価指標面に割安感が生じるし、その逆であれば割高感が生じるからだ。収益拡大、成長のポイントは何か。(1)トップライン伸長に繋がる販売台数を伸ばせるかどうか。(2)台数との関連から国際競争上の立ち位置はどうか。(3)利益が生める車を作れるか。(4)リスク許容度はどうか。に絞られると考える。

ポイント(1)に関しては大きな心配はないと考える。台数増は㈰市場環境、㈪魅力ある車(燃費、品質が勝負[ここではマスマーケットで戦うことを前提にしており、フェラーリのよう特定市場で戦う会社は対象としない])が作れるかどうかに依存する。世界の新車市場は向こう2年間で足元の年85百万台から1億台に拡大すると見られる。伸びるのは米国、アジアと言われる。日系が極めて強い市場だ。唯一、領土問題による落ち込みから中国での苦戦が目立つ。しかし、足元は同問題での落ち込みからの回復途上にまだあり一段のシェア挽回が期待できる。また、㈪に関しても燃費は世界トップ、品質は中古車市場での人気や価格が問題なきことを証明する。

次ぎに(2)に関して考える。日系の競争相手は欧米完成車メーカーだ。中国メーカーなど新興勢力台頭への脅威はあるが市場の中心となるガソリンエンジン車ではかなりの差がある。欧州危機でVWを除く欧州勢は疲弊が顕著だ。リーマンショックから復活の米国勢は母国市場の大型車好調に支えられえおり、中国を除くアジア成長市場への取り組みはこれからだ。日系完成車メーカーは体調をいち早く整え、成長投資に大きく舵を切る。成長が見込める市場で既に大きな存在感を持つことも相俟って、国際競争上も現状優位に立つと言っても過言でない。

更に(3)であるが、台数増が図れても利益が出ないのでは本末転倒である。また、これができるか否かは株式投資尺度であるROEに直結する。今後の中心は小型車、低価格車。ここで、国内における軽自動車開発が生きる。「小さな車で確り収益を確保」は日系のお家芸だ。また、車台や部品を共通化し、共通化された基本構造部分の組み合わせで違う顔の車を作る。調達コストや開発コストの大幅な引き下げが可能になる。浮いた費用の一部は付加価値向上に当てる。そして、新型車投入期間を短縮し、台数を伸ばす。今後台数増が行き残りに必要不可欠と言われる中で重要になると見られるこうした新たな設計思想、戦略の採り込みにも余念がない。

最後に残る(4)のリスク許容度。ここでは為替と生産国でもあり消費地ともなった新興国での賃金上昇、通貨安による製造コストの上昇が顕在化しているリスクと言える。競争相手も含めグローバルに戦う完成車メーカーが内包するリスクである。1米ドル70円台の円高を経験し、国内外の生産体制の見直し、地産地消を推進したことから従来に比べ日系完成車メーカーの為替リスク許容度は飛躍的に高まったと言える。また、成長市場はインフレが基本的に進行するため値上げでコストアップはある程度吸収可能だ。

日系完成車メーカーの15/3期業績見通しは概ね持続的成長への先行投資を織り込み踊り場入りを示唆する内容となった。今期の業績が大きく伸びぬ見込みであることが足元の自動車株伸び悩みの一因になっている。しかし、前記の成長のポイント(1)から(4)をクリアしていることを踏まえると足元の株価水準は全体でみても、個社で見ても割安圏にあると考える。結論としてあくまで(1)から(4)の条件が崩れないという前提に立つならば日系自動車株にはまだまだ上昇余地は大きいだろう。輸出株の代表であり、外人の持ち株比率が高い自動車株は、為替で円高が進めば外人が株を売って通貨円を買うと言う動きにでるため円高になったら下押しは避けられぬという意見もあろう。ただし、ポイント(4)の説明で述べたように為替リスクに対する許容度が従来に増して高まっているという現状を踏まえればその時は絶好の押し目になる可能性があろう。

(注)完成車メーカー8社は日産自動車、トヨタ自動車、三菱自動車、マツダ、ダイハツ工業、ホンダ、スズキ、富士重工業。内、日産、ホンダ以外が最高益を更新。

以上

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