今月中旬の尖閣諸島国有化を機に中国で反日デモが拡大した。過去にも日本の国連安全保障理事会常任理事国入りや同諸島沖での漁船衝突事件などをきっかけに反日デモが発生した。しかし、今回の反日抗議デモは100都市以上に及び過去最大だ。加熱化、暴徒化したデモにより一部日本車ディーラーが攻撃された。一時的な販売店の休業や販売促進キャンペーンの自粛などにより日系ブランド車販売に影響が出始めている。リーマンショック後、世界最大に急成長し、足下で成長鈍化に潮目が変わったとみられる中国自動車市場での出来事が故に不安が募る。デモや破壊活動は一旦収束した。それでも下げ止まらぬ自動車セクター株価はまさに今後の業績への市場の警戒の強さを象徴する。
グローバル販売台数に占める日系メーカーの中国販売比重は最も高い日産自動車で25%に上る。各社とも年々中国依存を強めている。中国の収益性は最近労務コストが上がりつつあるとはいえ、先進地域に比べ相対的に高い。このため、完成車メーカーの中国事業出資比率は50%に制限されるものの、大手完成車メーカーの今期(13/3期)最終利益見込みの2割前後は中国事業が貢献予定であったと小職試算では推計される。また、出資制限がない部品メーカーは子会社で中国事業を運営するケースが多い。混乱が長期化した場合、より大きな業績影響が部品メーカーに出る可能性がある点には注意を要そう。
日本車ディーラーが正常な営業ができる状況に現在はない。こうした中、完成車メーカーは生産調整に動き始めた。他に補完が効く好調な市場があるわけではなく、反日問題の自動車業界業績への影響の顕在化は避けられそうにない。但し、完成車メーカーの現地工場は全てが中国大手企業との合弁だ。恐れずに敢えて言えば、現地の利益を損なう操業の大幅低下が長期化するとは考え難い。そうした事態は日系以外の外資の中国展開にも影響を及ぼしかねない。なお、暴動発生以来、中国依存の高さから日産自動車の株価下落が激しいが中国比率の高さは新興国事業の競争力の高さの裏返しでもある。今回の問題を契機に中国依存が高い先の中期的成長性は危ぶむ議論を展開するのも賢明ではないと考える。
生産への影響は短期的と考えられる一方で、今後の消費者の購買行動には不透明感が強い。中国には日、米、欧、韓の全ての外資系が参入、消費者の選択肢は広い。こうした中、日中関係悪化が継続し日本車不買運動などの動きが強まり長期化すると一般消費者の日系ブランドへのイメージ大幅低下を招くリスクはある。日本車離れが進めば現地生産は短期的に回復しても中期的に縮小に向かう。但し、政治的緊張や感情的要因が、派手さを好む一方で性能など実利も確り求める一般消費者の購買行動を急激に変えるとも思えない。日系メーカーは環境で先行、市場ニーズに適合した多岐選択肢や人気車種を多数備える。それ故大掛かりな日系ブランド離れは起きないと楽観的に考えたい。しかし、現時点で結論付けるには時期尚早だ。緊張状態の早期緩和が先ずは望まれる。