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アナリストコラム

どう描く復興後のサプライチェーン像

2011年04月01日

東日本大震災の完成車や部品生産への影響が深刻だ。発生から3週間後の現在、当初の再開見通しの延期を図る、一時的に再開はしたが部品在庫不足から再度生産が停止となる、など置かれた状況で生産対応は分かれるが、混乱はとても収まらず、各企業の生産本格回復にはまだかなりの時間がかかるだろう。

震災地を離れ、生産に支障がない工場の生産への影響も無視できない。東海や中国地方など国内の生産拠点に止まらず、海外工場、更には海外完成車メーカーの生産にまで影響が及んでいる。サプライチェーン寸断の影響の大きさと国内自動車業界の海外との繋がりの深さ、存在感の大きさを改めて痛感する。

数年前の新潟中越沖地震でのリケンショックの記憶が重なる。エンジン部品を生産する中核工場の被災により、トヨタの生産が数日間全面ストップした。必要以上の在庫を持たぬ「カンバン方式」の弱点が指摘された。今回はこの比ではない。原発事故による電力供給力不足、広範囲に及ぶ被害による物流の大混乱、などが生産復帰を巡る混迷を深めている。

証券アナリストとしてカバー先の来期業積見通しが立て難い。まず、生産停止の影響による国内生産の落ち込みの程度が現段階では全く見えない。ただし、確実に言えるのは、生産調整が機会損失を生む、計画停電が生産効率の悪化を招く、影響が長引けば被災影響がなかった地域への一時的な生産移管による費用増が想定される、物流費やエネルギーコストの増加が見込まれる、などが収益を圧迫すると言うことだ。

しかし、より重要なことは、震災により国内生産に関るコストに中長期的に上昇圧力がかかる可能性があることだ。原発への信頼が揺らいだことが大きい。資源に乏しい日本での原発推進政策転換により電力の安定供給を求めた場合、発電コスト上昇により、製造に関るエネルギー費用の増、物流費上昇の継続、などが懸念される。また、ライフライン寸断に備えて生産・開発機能の一層の分散が必要となろう。そして、自衛のための自家発電体制の強化や工場火災保険料の上昇などコストアップ要因は枚挙にいとまがない。やや飛躍するが、温暖化防止からの原発発電と夜間電力活用による電気自動車普及推進の気運にも見直しが入るかもしれない。そして、現行の環境車戦略の転換に繋がる可能性もあろう。

リーマンショックをリストラと成長地域の需要取り込みで乗り越えたところで起きた大ショックである。国内メーカーは国内市場縮小の中で成長地域強化の一方、研究開発拠点、海外のマザー工場、海外需要の調整弁として、国内での一定の生産維持の重要性を強調してきた。被災地で生産インフラの復旧が今後、次第に進むだろう。とともに、国内生産のコスト増の可能性なども含め、浮かび上がった課題を踏まえグローバルでのサプライチチェーンの見直しの中で国内生産の位置づけの議論が生じよう。課題解決の決定打が海外シフトに行き着き、基幹産業の海外移転が進んでは日本経済の成長のエンジンが無くなりかねない。成長のエンジンなくして震災からの復興は無く、このことを踏まえて官民挙げての復興への取り組みが今まさに必要であり、先ずは円高阻止に止まらず、電力供給などでの企業配慮などが重要になっていると言えよう。

(3月28日付 日刊自動車新聞記載)

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