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アナリストコラム

原材料高にどう向き合うか、解決力が試される -高田 悟-

2011年03月04日

タイヤメーカー大手から中期的成長戦略として「ハーフウェイト」という目標が打ち出されている。原材料使用量半減を目指すイノベーションである。タイヤの強度や耐久性を維持しつつ資源活用量を大幅に落とすことのハードルは大変高いと聞く。とはいえ、「ハーフウェイト」という高い目標を掲げ開発に取り組む過程の中で得られた技術はランフラットタイヤや低燃費タイヤなどの高付加価値タイヤのスペック最適化に既に採り込まれており、合理化に伴うコスト改善面で一定の成果を生んでいるもようである。

省資源という観点からはトラック・バス用タイヤで中古タイヤの接地部分を取り替え更生した「リトレッドタイヤ」の普及が進む。新品タイヤ生産に比べ原材料使用量を大幅に削減でき、安価なため先行する北米では市販用タイヤ市場の半分を再生タイヤが占める。国内でも2割程度が「リトレッドタイヤ」に置き換わっているもようだ。乗用車用では土台となる中古タイヤの強度から安全面で「リトレッド」という考えを採りにくい中、比重の高い乗用車用も含め、新品タイヤの生産段階から原材料使用量半減を目指すこの「ハーフウェイト」という取り組みは究極的な省資源対策としても注目される。

この背景にはタイヤ重量構成で約3割を占める天然ゴム価格の高騰がある。新興国景気の拡大や天候不順などを受け天然ゴム価格は一年前のおよそ倍となり、世界金融危機後からは約3倍にまで跳ね上がっている。新興国での自動車需要増加や先進国の景気回復を受けタイヤ生産・販売の回復が進むが、数量増、操業改善効果で得た稼ぎを原材料高が食い潰す。値上で採算の改善を図るが後追いとなる。また、原材料上昇影響の売価へのフル転嫁は困難であり、安易な値上は低価格の輸入タイヤの攻勢を許す。

原材料価格上昇に繋がる資源高は天然ゴムに止まらない。中東の政情悪化から原油が騰勢を強める。昨秋、中国で政策転換からレアアースが高騰したことは記憶に新しい。足元の資源高には騰貴マネーの動きが大きく影響しており、需給関係からは行き過ぎだという意見も多い。確かに短期的には正しいのかもしれない。但し、新興国経済の拡大と近代化、先進国の低成長と金余りという構図を踏まえると中期的には現在の資源価格の水準が需給面からも妥当となっている公算は高く、こうした中、資源には常に価格上昇圧力がかかっていると言っても過言ではなかろう。

天然ゴム高に加え石油系の原材料を大量に使うタイヤメーカーにとって、原油高が続くと大きな痛手となる。利益なき繁忙とならぬよう今、視点を変えた抜本的なコスト削減策が今必要なのだ。見方を変えれば原材料高のタイヤ価格への転嫁を合理化努力で極力抑え良品を提供することで顧客の満足を得る力が一層重要になっていると言うこともできよう。また、旺盛な新興国需要で資源高が構造的な問題になりつつある今日、原材料高とどう向き合うのかが、タイヤメーカーに限らずものづくり企業の明日を左右するとも言えそうだ。リーマンショックや円高の荒波を何とか乗り越えた国内ものづくり企業にとっては原材料高への抵抗力、原材料高を受けての販売・生産面での課題のソリューション力が今後の生き残りの条件になってくると見ている。

(2月28日付 日刊自動車新聞掲載)

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