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アナリストコラム

軽で優位に立つものが世界の自動車を制す -高田 悟-

2011年01月07日

地方を中心に根強い人気がある軽自動車(以下軽)の販売競争が激化しそうだ。トヨタ自動車が子会社ダイハツ工業から車両供給を受け来秋から軽市場への参入を表明した。続いて、従来スズキからOEM供給を受けてきた日産自動車も三菱自動車との提携の一環として、軽の共同開発に踏み込む。折半出資の合弁会社を通じた共同開発車を今後投入の方向だ。

排気量660cc以下の軽市場は90年代後半からじりじり拡大した。国内新車販売比重も08年度に4割弱に達した。手ごろな価格、ランニングコストの安さが普及の背景だが規格拡大による居住性の高まりも需要を押し上げた。国内自動車市場縮小が予想される中、エコカー購入補助で需要を大きく先食いした登録車に比べ、軽需要は今後も底堅いと見られる。軽が重みを増す中、大手が軽の販売や独自開発に動くのは当然の帰結とも言えよう。

とはいえ、軽需要も決して安泰とは言えない。ホンダの「フィットハイブリッド(HV)」の登場など小型車でHV化が進んでいる、日産が5人乗りの電気自動車(EV)「リーフ」を市場投入しEV普及が本格的に始まった、などを踏まえると今後は燃費やCO2排出量の少なさで勝る次世代自動車との競合が強まると想定されるからだ。登録から廃車までライフサイクルトータルのコストはまだ軽保有が十分有利と考えられる。しかし、次世代自動車の量産、電池価格の低下、そして軽優遇税制の見直し、などによっては軽の優位性が急速に縮んでしまう脅威もある。

この意味で今まさに軽の存在意義が問われているとも言える。軽の存在価値は安価で燃費がよく身近な移動に便利であることに尽き、従来以上に燃費改善の必要性に迫られているとも言えそうだ。ダイハツ工業から30km/?と既存のHV車並の低燃費を実現した「イース」が近く登場する。低燃費実現に向け徹底した車体軽量化が図られたもようだ。「イース」をベンチマークに軽の低燃費競争に拍車がかかると予想される。

燃費向上の基本は車体軽量化だ。軽の開発では低コスト追求の一方、樹脂やアルミ部品の使用拡大を図るなど限られたスペースの中でぎりぎりの努力がなされる。日本が優位性持つと言われるハイテン材(高張力鋼板)の使用割合も軽量化と衝突安全性確保の両立から登録車などに比べ高いと聞く。これに、最近はアドリングストップなど内燃機関の最先端の燃費改善技術が加わる。こうした中、大手参入による軽同士や次世代自動車との販売競争激化による軽の一層の進化が国内自動車産業の発展にとって望ましいと考える。

現在70百万台弱の世界自動車市場は5年後に80百万台になると見られる。10百万台強の増加は中国やインドそしてその周辺諸国と言われる。人口密集地域でのモータリゼーションの進行。低燃費、小型、低価格車がボリュームゾーンとなることは明らかで、成長市場攻略には新興国基準の車造りが重要となる。軽開発で蓄積される最新の技術は新興国対応車造りで様々なソリューションをもたらすことは間違いない。同時に軽の進化は燃費改善を伴う環境技術の強化でもある。この意味で国内独自規格でもある軽自動車で優位に立った者が世界を制するとも考えられるからだ。   

(平成22年12月27日付 日刊自動車新聞掲載)

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