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アナリストコラム

ファンダメンタルズよりテクニカルより、資本の都合 -陳 晁熙-

2010年11月19日

米国の金融緩和の拡大によりドルが市場にあふれた。低利のドルを借りてリターンの大きい株式相場や商品相場、高金利通貨に投資する「ドルキャリートレード」が行なわれた。その積み上がったポジションは、11月のFOMC(2?3日)が終了した1週間後にほぼ解消されている。具体的に見てみよう。

秋相場が9月1日に開始したとする。NY金は1176.7ドルが11月9日の1424.3ドルでピークとなった。同様にNY原油は70.76ドルが11月11日に88.63ドル、シカゴコーンは437.75セントが11月9日に605.0セント、シカゴ大豆は1004セントが11月12日に1348.5セントでそれぞれピークに達している。ちなみに商品市場全体の動向を示すロイタージェフリーCRB指数は265.28ポイントから11月9日に320.38ポイントでピークに達している。20.8%の上昇率。株式相場、為替相場でも同じ傾向にある。NYダウは9月1日の10016.01ドルから11月5日に11451.53ドルと14.3%上昇した。ナスダックは2141.95ドルから11月9日の2592.94ドルへと21%上昇。外国為替市場では、サプライズの利上げもあって豪ドルの上昇が顕著だった。対米ドルでは0.89ドルから11月5日には1.0179ドルへと14.4%上昇した。ユーロは対米ドルで1.2660ドルから11月4日に1.428ドルへと13%上昇した。

投資対象に関係なく一斉に利益確定に出たわけだが、FOMCで国債買い入れ額が6000億ドルと決定した事、10月の雇用統計が予想以上に改善していた事の2点がきっかけになったと考えられる。しかし、株式、貴金属、エネルギー、穀物、外国為替はそれぞれファンダメンタルズも大きく異なるものなのに、それがほぼ同時期にポジションを解消するというのも奇妙だ。だが、投資本体が同一であると考えれば納得できる。

ヘッジファンドには解約ルールがある。通常、解約月期末の45日前後に解約を申し出るという取り決めになっている。そして、解約月には年3回型(4月、8月、12月)と年4回型(3月、6月、9月、12月)の2種類があり、どちらもかぶるのがクリスマス休暇のある12月。つまり、12月末の45日前の11月10日前後から、ポジションの解消が実施される事になる。そこにはファンダメンタルズやテクニカルよりも資本の都合が大きく作用している。現在の下落もポジション解消による下落でパニック売りを誘うものになるとは考えにくく、株式相場、商品相場、高金利通貨のいずれも長期上昇トレンドが崩れるには至っていない。例えば200日移動平均線を割り込んでいない事は確認できる。

ブルームバーグが実施した四半期調査によると、向こう1年で最も大きな投資チャンスを提供する国は、1位中国、2位ブラジル、3位インド、4位が米国との回答が寄せられた。新興国の経済発展はまだまだ続く。物資やエネルギーの需要は増加傾向にある。

EIA(米エネルギー省エネルギー情報局)によると、世界経済の回復を背景に2011年の世界原油需要の増加幅見通しは日量3万3000バレル引き上げられ、日量144万バレルになる見通し。原油需要は日量8780万バレル近くとなり、その大半を中国、中東、ブラジルの伸びが占めると予想している。これを背景にピムコ・コモディティ・ファンド運用担当者は、原油価格は1年後に100ドルに上昇している可能性があると強気の見通しを予想している。金価格についても依然として強気見通しは健在だ。BNPバリバは、2011年の金価格予想を1290ドルから1500ドルへ引き上げている。いずれ米国の金融緩和を受けた「ドルキャリートレード」が再開されることになり、リスク資産の上昇が予想される。相場は新月だった6日前後でピークを打ったが、22日には満月を迎えるので、来週から月末にかけて現在の下落基調も落ち着いてくると予想する。


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 エース交易株式会社
 シニアアナリスト
 陳 晁熙(ちん ちょうき)
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