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アナリストコラム

出遅れた資源戦略、技術力でカバー -溝上 泰吏-

2010年10月29日

わが国の資源戦略は、高度経済成長期に必要とされ、”鉄は国家なり”に象徴されるように、鉄鋼関連の資源と2度にわたるオイルショックを経てエネルギー関連に重点を置かれてきた。今回、わが国のアキレス腱とも言われるレアアース(希土類)で事件が起こった。レアアースは産業のビタミンと言われ、わが国の先端技術において不可欠な素材である。それ自体の使用量が少ないが、製品の性能や機能を高める添加物として最も重要である。近年、日本政府はレアアースを重要素材として監視していただけで、充分な対応を取ってこなかった。

わが国は、レアアース(17元素の総称)の全量を輸入に頼っており、その9割以上を中国が占めている。今回、中国からのレアアース輸出停止は、一つのきっかけに過ぎない。中国の希土戦略は、05年にこれまでの外貨獲得から資源保護に切り替えた。中国はレアアース輸出量を年率2割程度の割合で削減。更に今年の輸出量は、前年比4割減にする計画である。中国では、電動自転車の普及や、電気自動車への新規参入が相次いで発表されており、自国内のレアアース需要が一層高まってくる。中国政府は、ますますレアアースの輸出量を絞ってくるものとみられる。

わが国は対策として、レアアースの備蓄や、他国からの調達に振り替える計画であるが、問題は山積している。
一般的にレアアースは放射能物質を含むことが多いため、除去など色々な対策が必要になる。中国のレアアースは放射能物質を含まない世界でも稀なケースである。

自動車産業において最も問題となるのは、ジィスプロシウムである。ジィスプロシウムというレアアースは、中重希土(質量の重いレアアース)に属し、HEVに使用されている希土類磁石の耐熱性を向上させるために不可欠な素材である。この中重希土は中国でしか生産していないのである。希土類磁石の主原料であるネオジウムや同じ添加剤であるセリウムなど軽希土(質量の軽いレアアース)は、中国以外でも産出しているため、調達先の拡大で対応できるが、中重希土では鉱山を探鉱し、稼動するまで時間を要する。

80年以降の中国によるレアアースの安値販売により、中国以外では希土類鉱山の探鉱はおろか、開発が進められてこなかった経緯がある。
こうしたことから、今後市場投入が本格化してくるEVの早期普及に期待がかかる。EVは、ガソリンエンジンを搭載していないため、高い耐熱性が求められないことから、ジィスプロシウムが必要なしとの報告がある。耐熱温度が120度までであれば、技術力でもって希土類磁石の基本組成で対応できるとのいうのである。それ以外では、大学レベルで研究が進んでいる希土類磁石を使用しないモータの早期実現が待たれる。

これまでお金を出せば、手にすることができた資源ではあるが、現在はお金を出しても入手できない状況となってきている。加えて、世界的に出遅れ感のあるわが国の資源戦略、その突破口は、やはり技術力でしかないのではないでしょうか。

(日刊自動車新聞10月25日付掲載)

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