メニュー
アナリストコラム

転換期の自動車、電機の_反省_から何を学ぶか -服部 隆生-

2010年10月01日

電機セクター担当のアナリストとして今回(新聞寄稿分として)2回目の執筆となる。前回(6月28日、当コラムでは7月2日)は自動車市場の構造変化が変える電機の経営戦略について取り上げたが、今回はエレクトロニクス業界を取り巻くこれまでのグローバル環境の変化を参考に、今後の自動車業界を占う上で何か活かせるものがないか考えてみたい。

しばしば聞かれる議論として、PCなどのデジタル機器はモジュラー型であるのに対し、自動車は典型的なすり合わせ型製品との考え方がある。すり合わせ型は、部品或いは部材間の調整などにおいて日本人の得意とする微妙な加減が鍵を握る世界であり、しばしば製造のブラックボックスが参入障壁ともなる。一方、半導体の最大のアプリケーションであるデジタル機器で多く見受けられるモジュラー型では、オープンなアーキテクチャーの下、新規参入が容易で、水平分業のビジネスモデルが馴染みやすい他、こちらは標準化がキーワードになる。

半導体の性能向上を示す指標としてムーアの法則が挙げられる。半導体の集積度はおよそ18カ月で2倍になるという理論である。半導体は微細化により20世紀末までの約40年間で単位あたりコストがほぼ1億分の1になったとの説もある。デジタル製品の凄まじい価格下落もモジュラー型製品の特徴といえるだろう。電機業界ではアナログからデジタルの時代となり、デバイス或いはモジュールさえ調達できれば誰でも薄型テレビの製造メーカーとして新規参入でき、実際米国ではVizioという新興企業がテレビの市場シェアで上位に急浮上したことは記憶に新しい。PCではネットブックという低価格帯の市場が新たな需要層を掘り起こし、カーナビでも廉価版のPNDが台頭するなど、変化が激しいのもデジタル時代の特色といえる。需要地がこれまでの先進国中心から新興国にも広がり、今後の成長の鍵を握るのが新興国である以上、価格は重要なファクターになると考えられる。

一方、自動車業界の動向に目を転ずれば、インドのメーカーが20万円台の超低価格車を最近投入した話は別として、自動車の販売価格はほとんど下がってこなかった。むしろ、国産車では環境や安全性能などの向上を伴って価格が上がった感もある。現在、自動車業界は従来のガソリン車から電気自動車/ハイブリッド車など環境対応車にシフトする歴史的な転換点にある。電機の世界ではデジタル化を契機として、需要変動により機敏に対応できる水平分業モデル、半導体製造ではファウンドリー、セットの組立生産ではEMSという新勢力が台頭する大きな変化を引き起こした。自動車業界でも電気自動車には既に新規参入が相次いでいるが、業界にとってビジネスモデルの転換点となるのであろうか。もちろん、自動車はPCなどと違って、安全面での要求度合いは格段に高く、エレクトロニクス製品とすぐに同じ構図になることはないだろう。しかし、安全性重視を「神話化」することも危険と考えられる。

日本の電機メーカーの相対的なポジションが低下した反省点として、㈰過去の成功体験が慢心にもなり変化への対応を遅らせたこと、㈪海外勢と比べて経営のスピード感覚が欠如していたことなどが指摘できる。自動車市場は今まさに転換期にあり、業界の勢力図にも変化の可能性がある。自動車メーカーにとって、価格も含めて明確な戦略が重要になってくると同時に、どこで付加価値を取っていくかが今後の収益動向を見る上でポイントになると考えられる。

(日刊自動車新聞9月27日付掲載) 

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る