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アナリストコラム

自動車部品セクター上期決算の注目ポイント -高田 悟-

2010年09月24日

筆者は自動車・自動車部品セクターのアナリストとして、30社弱のティアワン(一次サプライヤー)自動車部品メーカーをカバーしている。系列や取り扱い製品の違い、更には自動車部品以外の事業の動向、などにより収益構造は其々異なる。しかし、11/3期1Q(4-6月)決算は各社揃って前年同期から大幅な業績改善となった。このため、その殆どが11/3期上期計画を上方修正した。一方で下期計画に関しては殆どが従来見通しを据え置いた。据え置いたというよりは見直しをしなかった、或いは見直しできなかったが正しい。

これは、1Qの好決算は9月末で終了するエコカー購入補助金の影響を強く受けたためだ。本年4-6月の国内自動車生産は国内販売堅調と輸出回復を受け、リーマンショック後の大幅な生産調整期となった前年同期から約35%上向いた。政策効果により生産数量が急激に上向く中、各社、国内生産がピークの6?7割程度でも利益が生めるよう贅肉を落としていたため、限界利益率の改善効果をたっぷり享受できたことが大きい。

10月以降はこの効果が剥落する。各社1Q決算公表時点では、補助金終了の国内販売への影響を読みづらく、終了後の状況がある程度見える中間時までに下期を含む通期見通しの見直しを行いその結果を報告するとした。つまり、1カ月後から始まる上期決算では上期業績が政策支援によりどの程度嵩上げされていたのかが判る。これによりカバー先各社の現状の実力値が見えるものと期待する。足下の業績好調が国内販売増を要因とする国内生産回復効果にどの程度依存していたのかで、中間時の業績見直しは、企業毎にかなり異なってくる可能性があろう。
こうした中、各社の今後の成長の可能性を探る意味で次回の上期決算では、先ずは㈰国内新車需要を先食いし今後縮小均衡が予想される国内生産に足下の業績がどの程度依存しているのかのチェックが大きなポイントと言えよう。加えて、㈪円高が進む中での為替変動への抵抗力、㈫中期的に成長が見込めるアジア新興国市場で現状どの程度稼ぐ力があるのか、更には㈬環境激変の中で自動車部品以外の収益源が育っているのか、などにも注目していくことが重要と考えている。

先般の為替介入で一旦は落ち着いたものの、為替は足下、再び対ドルで85円を割り込んだ。㈰デフレ長期化で実質金利が下がらない、㈪米国のドル安志向、㈫ユーロや人民元など米ドル以外の通貨の台頭、などを踏まえると最早1米ドル100円へ戻るのはかなり厳しい。一方、需要地が先進市場から新興国市場にシフトし廉価車がボリュームゾーンとなる現状を踏まえると完成車メーカーは一層需要地での生産、調達を加速させるだろう。今後は付加価値の高い製品を追うよりも廉価で高品質な部品を需要地で大量かつ安定的に供給する能力が重要となる。主力車の次期モデルチェンジでは車造りが根本的に変わってくる可能性もある。更には電気自動車の急速な普及で取扱う主力部品の市場が急激に縮小するリスクもある。

政策支援に支えられた業績回復により隠れてしまった感があるが、自動車部品業界を取り巻く環境は急激かつ急速に変化している。この変化に形はどうであれ、対応できるか否かで今後は企業毎に大きく明暗が分かれるであろう。こうした点を見極めるポイントをつかむためにも上期決算発表での通期見通しの確認、その先に控え、来年以降が見えてくる11/3期第3四半期決算の分析は非常に重要になると考えている。

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