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アナリストコラム

スポンジチタン価格 -溝上 泰吏-

2010年09月03日

スポンジチタンの価格は2つあります。品種によって価格帯が異なり、全く別の動きをします。スポンジチタンは、品質により低品質、中・高品質に分けられます。中・高品質は金属チタンとなりますが、低品質は鉄鋼の添加材や粗鋼生産時に鉄鉱石から酸素を取り除くための脱酸用に使われます。このため、低品質のスポンジチタン価格は世界の鉄鋼需要の影響を受けて変動します。そのうえ、市況製品として毎週メタルブリティンなどで価格が掲載されています。なお、この分類にはチタンスクラップも含まれますが、スクラップ発生量の多い米国が中心となっています。

一方、金属チタンとなる中・高品質のスポンジチタンは、ユーザーが異なりますが、それぞれ相対で取引されるため、具体的な価格は開示されていません(高品質スポンジチタンのおおまかな価格が知りたければ、財務省の貿易統計で知ることができます)。両製品の価格帯は、異なるものの、同じような変動をする傾向があります。なお、中品質のスポンジチタンは、海水淡水化プラントや建築材、原子力部材、医療器具など幅広く使われます。これらの製品は日本の鉄鋼メーカーが世界をリードしていると言えます。一方、高品質のスポンジチタンは、航空機向けに使われます。厳密には純度によって価格が細かく分かれています。ジェットエンジンのローター(回転)部分は、プレミアム品と称し最も価格が高くなっています。航空機向けでも本体などに使われるボルトやナット類は、それほど純度を必要としないため価格が安いほうだと言われています。
これら品質の異なるスポンジチタンですが、それぞれ個別に生産しているわけではなく同じ設備で同時に作られます。これは、スポンジチタンの生産方式が連続生産ではなくバッチ生産であるためです。バッチとは大きな容器のことです。溶けたスポンジチタンを冷却し、固める際に、ステンレス製のバッチからニッケルや鉄などが溶け出すことがあります。このため、容器の周辺部分の製品は純度が落ちます。逆に中心部に高品質の製品ができます。その割合はメーカーによって異なります。その割合をコントロールするのが各社の技術力なのです。わが国のスポンジチタンメーカーは、低品質の割合が1割強に対し、米国やロシア、カザフスタンメーカーは2?3割が低品質、中国やウクライナのものは、6?8割が低品質で、高品質は稀にできる程度と言われています。

スポンジチタンは、連続生産である鉄やアルミなどと異なり、最新の生産設備を導入しても、高品質が必ず生産できるとはいえません。その設備を操作する技術者の技術力(メンテナンスや温度管理、反応速度の調整など)が無ければ、高品質スポンジチタンの生産が難しいのです(ソビエト崩壊の際、ロシアやカザフスタン、ウクライナのメーカーはメンテナンスを行わなかったため、僅か3年でスポンジチタンの生産能力が半減しました)。ちなみに、東邦チタニウム(5727)が過去に10年間、米国のタイメットにスポンジチタンの生産技術を指導しました。しかし、東邦チタニウムは現在でもタイメットに、高品質スポンジチタンを輸出し続けています。タイメットは、東邦チタニウムにとって最大の海外ユーザーです。

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