8月13日付の日刊不動産経済通信(不動産経済研究所が発行)は、馬淵澄夫国土交通副大臣がJ-REITの内部留保の仕組みを見直したい考えを明らかにしたと報じた。同紙と住宅新報社との共同取材に応じた際の発言で、国交省の総意になっているかは定かでない。
J-REITは導管性要件である90%超の配当を行うことにより法人税を免除されており、上場J-REITは原則100%配当を行っている(100%配当にしないと未分配金に法人税が課税される)。従って、利益の内部留保は特殊な場合を除くとない。キャッシュフロー上の内部留保として減価償却費とCAPEX(資本的支出)の差額があるが大きな額にはならない。それでもJ-REITは、安定的な不動産賃貸事業のみを行うビークルであり、保有物件も比較的優良で瑕疵が少なく、LTV(有利子負債比率)も比較的低位にとどめる保守的な財務戦略をとっているため、資金調達に関し特段の懸念は持たれていなかった。
しかし、米サブプライムローンを端緒にした世界的な金融危機の中では、内部留保がないことがレンダーに不安感を与え、2008?2009年にかけてスポンサーの信用度が低いREITにおいてリファイナンスリスクが極度に高まり、2008年10月にはニューシティ・レジデンス投資法人がJ-REITとして初めて民事再生法の適用を申請するに至った。他のREITでも借入金の返済のための物件の投売りやリファイナンスコストの急上昇により分配金を大きく減らす事例が散見された。不動産の最後の買い手としての役割を果たせなくなり、不動産市場の流動性も枯渇した。
こうした事態に対し、J−REIT業界はARES(不動産証券化協会)等を通じ、不動産市場安定化ファンド(通称:官民ファンド)の設立や、M&A実現のための制度・税制の整備を国交省や金融庁に要望し、実現してきた。今回の馬淵副大臣の発言も、業界の要望に応じたものと思われる。導管性要件である90%超の配当性向は米国をはじめ、欧州、アジアでも標準的な水準。業界が望んでいる内部留保は、㈰未分配金(10%部分)を非課税にする、㈪キャピタルゲイン(物件売却益)を非課税にすること、だと考えられる。キャピタルゲインを配当しなくても非課税になっている海外REITはかなりある。米国の場合は、導管性要件の配当性向の計算の際にキャピタルゲインを含めないが、配当しないとキャピタルゲインに対してのみ法人税35%が課税される。J−REITにおいて何らかの形で内部留保ができれば資本政策の自由度が高まり、投資家にとっても分配金の安定につながるためプラスといえよう。
内部留保のほかに資本政策の自由度を高めるために期待される制度・税制改正として、㈰減資制度の導入(投資口の買入消却)、㈪CBやライツ・イシュー(株主割当増資)の解禁が挙げられよう。現在は外部成長の好機だが、PBR1倍を大きく下回るディスカウント増資を強行すると、少々物件を安く買えたとしてもEPSは希薄化し、既存投資主は不利益を蒙ってしまう。こうした状況を打破するために、㈰や㈪は有効な手段と考えられる。