メニュー
アナリストコラム

EV電池標準化、過ちを繰り返すな -高田 悟-

2010年07月30日

走行中に温暖化ガスを出さない電気自動車(EV)は次世代自動車の本命と見られている。EVはガソリンエンジン車に比べ構造がシンプルでもあり、原油高騰時に過去数回ブーム化しかけた。ただし、二次電池の重量や能力が障害となりその都度直ぐに鎮静化した。しかし、大容量かつ小型で軽量のリチウムイオン二次電池が現われ、車両への搭載が可能となったことでEV本格普及に向け視界は今大きく開けている。

本年4月、個人向けに三菱自動車がEVのリース販売を、日産自動車は年末投入予定のEV「リーフ」の予約販売を開始した。リチウムイオン電池が搭載されたEVの個人向け販売が始まったことで本年はEV元年とも言えよう。今後EV普及のスピード、程度は㈰航続距離、㈪電池価格、㈫急速充電施設などインフラ整備、などの課題解消と公的な普及支援に依存すると見られている。

EV普及を巡る課題の中で、㈰の航続距離及び㈫のインフラ整備はもはやそれ程懸念の必要はないと考える。なぜなら、現行市販化されたEVの航続距離は一回の充電で最大160km程度の走行が可能であり、都市内の日常活動では既に十分なレベルにあると言える。また、インフラ整備に関して言えば、そもそもEVは家庭での充電が基本であり、ガソリンスタンド並みの充電施設設置は不要である、EV普及とともにインフラ整備への意欲は高まり、そのコストも下がり施設設置に拍車がかかると考えられる、などが指摘できる。従いEV普及で残された最大の課題は車両価格の約半分と言われる電池価格の高さと見ている。補助金なしでEVと従来車との価格差が双方のランニングコストを勘案した上で妥当なレベルへ縮小しなければいくら環境問題が重要とは言え社会的存在意義が上がらないからだ。

電池価格低下には標準化による量産が欠かせない。しかし、既にデファックト化されたパソコンや携帯電話用リチウムイオン電池とは異なり、車載用は安全性や性能での要求水準も高いため自由な開発が続いた方が電池性能の大幅向上に繋がる可能性がある、電池の性能を決める材料の選択肢の多さ故にパラメーターがあり過ぎ、本命の材料や仕様がまだ定まらない、などから標準化は次期尚早との意見も多い。このことは、現在よりももう一段コストパフォーマンスの良い電池を生み出し、一定の要求性能に応えられる電池を早く市場に送り出し信頼を勝ち得たところに大きなチャンスがあるとの見方もできよう。

EV普及が世界的に期待され、電池を制するものが世界の自動車市場を握ることにもなりかねぬ中、官民を挙げ電池開発を強化しその世界標準を握ろうとする動きが海外で勢いづいているように思える。国内では自動車各社がそれぞれ電池会社を作り独自で最適な電池を模索し横の連携には慎重な印象が強い。これまでリチウムイオン電池は日本発でもあり日本勢が世界シェアの過半を握ってきた。また、ニッケル水素電池ではあるがハイブリッド車で電池を積んで車を走らせた経験も長い。このため車載用リチウムイオン電池の開発では日本勢にまだ一日の長があると見られる。しかし、技術で先行しても標準化で遅れをとりグローバル競争に負けてしまうことがかつて他製品で繰り返されてきており、EV用電池の開発競争で再び同じ道を辿らぬようEV元年とも言える今年切に願う次第である。

 (日刊自動車新聞7月26日付掲載) 

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る