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アナリストコラム

産業ビジョン2010?機能性化学について? -高橋 俊郎-

2010年07月16日

6月3日に経済産業省から産業構造ビジョン2010が発表された。環境・エネルギーから文化産業、医療・介護・健康・子育てサービス、先端分野など幅広く提示されている。その中の先端分野の中に機能性化学の記述がある。機能性化学分野の総括はおおよそ次のように書かれている。
(1)我が国機能性化学は、1つ1つは小さな市場ではあるが、クラスター的に多数の市場でシェアが高く、競争力を有する産業である。例えば、日本の液晶やレジスト工場が止まれば世界の液晶パネルや半導体の生産に大きな影響がある。
(2)他方、強いユーザー産業(自動車や電子機器と考えられる)が減少し、従来の擦り合わせの長所が今後発揮しにくくなる懸念がある。
(3)研究開発費用は高額化している中、同一分野に多数の企業が参入しており重複研究投資が行われている。

中長期的には不安材料があるという内容である。液晶向けでは偏光板用PVAフィルム(液晶層を挟むフィルム)はクラレや日本合成化学工業、TACフィルム(偏光板の保護膜)は富士フイルムホールディングスやコニカミノルタホールディングスの寡占状態である。また、半導体封止材は、住友ベークライトをトップに日東電工や日立化成工業など国内メーカーの独占と日本企業しか製造していない部材が多い。たとえ韓国、中国企業が参入をしたとしても技術経験の差は大きいため当面は国内企業の寡占状況が続くだろう。

液晶テレビはシャープやパナソニック、ソニーなど国内企業の市場参入者が多いためすり合わせによる技術優位性を確保できており、海外メーカーにも販売しているため、品質やコストなどの対応に重複研究投資もプラスに働いている面もあると考える。
ただ、海外メーカーが関連会社で部材を内製化する動きや新興国でのシェア争いが激しくなることによる日本メーカーの脱落、部材の生産拠点の現地化が進んだ場合の生産と研究開発の対応などで長期的な競争力の確保には不透明感があるのかもしれない。

7月に入り韓国政府は10年後に2次電池分野の世界トップになるため15兆ウォン(1兆円強)を投資するロードマップを策定した模様だ。その内容は、(1)今後10年間、2次電池分野の修士・博士級人材を約1,000人育成し、この一部を技術革新型中小・中堅企業に派遣する、(2)各大学の課程拡大や専門大学院の新設も検討する、(3)リチウムイオン電池の重要部材である正極材や負極材などの技術者も育てる、(4)2次電池分野のグローバル素材企業を10社以上育成し世界市場のシェアも50%へと引き上げる、などである。
現在2次電池販売市場では日本が43%、韓国が32%、中国が21%を占めている模様。ただ、素材は日本企業が約80%弱のシェアを確保しているとみられ、韓国との数値以上に差は大きいと考えられる。しかし、現時点では小型(パソコンやモバイル向け)が主力である。今後は中型(自動車向けなど)、大型(自宅や産業向けなど)の広がりにより、2020年には現在の6倍以上(約7兆円)の市場規模が見込まれている。中型、大型向けの注力度合いにより市場構造は大きく変化する可能性がある。

産業構造ビジョン2010には、知的財産権と標準化を絡めて、基幹技術のブラックボックス化とオープン化の使い分けを戦略的に進めていくことの重要性や法人税の話題にも触れている。今後はいかに実行するかが優位性を継続し続けられるかの鍵となるだろう。機能性化学は自動車、電子機器、液晶テレビなどの市場で日本企業が競争力を持っていたからこそ、ともに成長した面がある。技術力が付き、一部製品では機能性化学でも競合関係となりつつある韓国企業の動向、特に国を挙げてシェア確保を狙う電池部材の市場動向に注目したい。

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