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アナリストコラム

どうなる国内の自動車生産と自動車産業 -高田 悟-

2010年07月09日

今年に入り5月までの5カ月間に国内で398万台の自動車が生産された。昨年1?5月の生産が263万台であったので、前年に比べ約5割の増加である。リーマンショックを背景に急激な在庫調整、減産に見舞われた前年に比べ生産は大きく回復した。とはいえ足下の生産水準はピークを迎えた2年前のまだ8割程度に止まる。果たしてこのまま回復を続け生産はピーク時のレベルまで戻るのだろうか。残念だが、戻るどころか、現状の生産水準を維持するのも難しいと考えざるを得ないのが現実だ。
5カ月間に生産された車の行き先から考えて見よう。工場在庫や流通在庫の関係で生産台数と一致はしないが国内販売に220万台、輸出に187万台が向かった。それぞれ、前年と比べ国内新車販売は2割強の増加、輸出は7割弱の増加となった。足下の生産回復には輸出がより大きく寄与していると言えよう。

数年前から車離れなどにより国内新車販売は減少傾向が顕著であった。このため2割程度の回復でも販売はリーマンショック前の水準近くまで戻っている。ただし、周知のとおり回復はエコカー買換え補助金の効果が極めて大きい。補助金終了により10月以降は需要先食の反動が出よう。反動が落ち着いても、少子、高齢化が進む中、国内新車販売に大きな期待は出来ないだろう。

一方、輸出はどうなるのだろう。2年前の7割にもまだ届かぬ水準にあり、回復余地が大きいように思える。しかし、㈰2年前は乗用車輸出仕向け地で4割弱の北米がバブル状態にあった、㈪今般の回復は昨年の海外での生産調整の反動や急速な需要の変化を国内生産で一時的に補完している側面がある、㈫現状の需要見合いでは従来から現地生産能力拡充を進めてきた大手の欧米生産能力に余裕があると見られる、㈬従来は輸出で需要急増に対応した新興国向けは急速に生産の現地化が進む、などから、足下の生産を支えるものの中期的に輸出に国内生産の牽引役を求めるのも厳しいと言わざるを得ない。
以上を踏まえると国内自動車生産は一定の海外需要向け生産を維持しつつも国内自動車保有の動向と買換えサイクルをベースとした今後の国内需要見合いで現在レベルから一定の水準へ数年かけ縮小均衡に向かうと考えるのが妥当だろう。

こうした中、筆者としては日産自動車の新型「マーチ」の国内工場からタイへの生産移管に強い衝撃を覚えている。国内で年間数万台の販売規模を持つ主力車種の海外から国内への供給は業界初の試みだ。新興国と小型車が成長の中心となる中、円高、海外に比べ不利な法人税制、硬直的な労働市場などを踏まえると、生産を需要も見込めるローコスト地域に移すのは企業行動として合理的で当然と言えよう。国内工場は電気自動車の生産に替わり稼動は維持されると聞く。とはいえ、こうした動きが他完成車メーカーでも強まるとボリュームゾーンの生産減により国内生産の大幅縮小を将来招く恐れもある。

リーマンショック前、長期に亘り国内自動車生産の拡大が続く中で国内の自動車産業は大きく成長し産業の裾野も拡がった。その中心とも言える自動車部品業界ではその多くの企業がリーマンショックを受け、国内自動車生産がピークの6?7割の水準でも利益が生めるよう、多大な犠牲を払い事業体質のスリム化を図った。とともに足下の生産回復で業績はV字回復を遂げた。しかし、リーマンショックを乗り越え一息つくも束の間、国内自動車生産の再悪化と国内生産の更なる縮小という大きな脅威に直面しているとも言えそうだ。

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