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アナリストコラム

ギリシャ財政危機は、対岸の火事か −岸 和夫−

2010年05月21日

ギリシャ発ユーロショック
ギリシャの財政危機に端を発したユーロショックが、世界の株式市場、為替市場を震撼させている。処方箋(金融支援策)は発表されたものの、まだまだ余震が続くことは覚悟しておいた方がいいだろう。EU欧州委員会によれば、2009年のギリシャのGDP(国内総生産)に対する財政赤字率は13%。ギリシャに次いで危ないと言われているスペインで11%、ポルトガルで9%であり、ユーロ圏全体で6%に比べると確かに高い(余談ですが、スペイン、ポルトガルはサッカーの強豪国で、6月開催の南アフリカW杯に出場します。サッカーでの世界ランキングは、スペインは2位、ポルトガルは3位ですが、奇しくも財政危機ランキングでも2位と3位?財政危機問題を頭の隅に置きながら、W杯を観戦するのも面白いかもしれません。なおギリシャも出場し、世界ランキンングは12位、2004年には欧州選手権で優勝した隠れた強豪です)。

果たして日本は大丈夫なのか
先日財務省が発表した日本の国の借金である公的債務(国債、借入金、政府短期証券の合計)は、2009年度末で883兆弱であり、GDP比の公的債務残高は189%程度となる。御存知のように先進諸国の中では、段違いに高い水準である。高いと言われているイタリア、ギリシャで120%前後であり、米国は84%、英国で71%の水準である。国民一人当たりの借金としては693万円程度であり、ギリシャ(300万円程度といわれている)の倍以上である。当面GDPが伸び悩み、財源の国債依存度は高まる?高水準で推移することが予想され、GDP比の公的債務残高は、更に上昇に向かう状況にある。果たしてこのままで、日本は大丈夫なのだろうか。

それでも、のんびり構えている理由とは
そのような状況にも関わらず、政府関係者を始め、日本全体がのんびりと構えている理由としては、㈰日銀によると、国債は国内勢が95%弱保有しており、しかも銀行等、生保、中央銀行で全体の61%程度を保有していること。㈪国債の利回りが低いこと、㈫経常収支が黒字であること、㈬消費税率が先進諸外国に比べて低く、税率を引き上げる余力があること等が挙げられている。私の友人の弁を借りれば、「日本の場合は例えば1億円の借金はあるけれど、8,000万円の資産があるようなものだから、ギリシャとは違い心配ないよ。」しかし海外の目には、どのように映っているのだろうか。今回のギリシャ財政危機をうけ、さすがに日本のソブリン・リスク(財政の信認問題)を警戒する声も出始めているようである。そうなれば少なからず株式市場への影響は避けられないだろう。家計の貯蓄率が大幅に低下してきており、経常収支も近い将来には赤字に転落を予想する向きもある。事態は更に悪化の様相を呈しつつあるのだが。

どうする消費税率
誰もが認識していることだが、財政再建を進めるには、消費税率のアップが不可欠だろう。しかし現状の景気を考えると、なかなか難しいのも事実であり、政権担当者は消費税率アップの必要性を認識しながらも、選挙のことを考えると及び腰にならざるをえないというのも現実であろう。現に鳩山政権は、政権担当後4年間消費税率は上げないと言明している。財政構造改革にも熱心だった小泉首相(当時)も、消費税に関する議論を自由活発に行うことは奨励していたが、政権担当期間中は上げないとの姿勢を貫いていた。97年に消費税率を引き上げた当時の橋本政権は、景気悪化に拍車をかけた形となり、98年の参議院選挙で惨敗し、退陣を余儀なくされている。誰も猫の首に鈴はつけたくないのである。しかし幸いにも、日本の消費税率(海外は付加価値税率)は、まだ5%の水準である。北欧3国の25%は別格だが、英国17.5%、ドイツ19%、フランス19.6%と比較しても、まだまだ低い水準である(因みにカナダは、日本と同じ5%)。米国は、州等により異なるようであり、例えばNY市で8.375%である。無駄な歳出を徹底的にカットし、その上で徐々に消費税率を引き上げていけば、改善に向かうことは自明の理であるはずだが。勿論景気が良くなるような状況でなければ、現実としては難しいのだが。

日本の将来を考えるには、いい機会では
消費税率が上がって喜ぶ人は、まずいないだろう。しかし、このまま知らん顔を決め込んで、後世にツケを回していくことも、どこかで限界が訪れよう。後世のことを憂い、国民に対し日本の財政状態、海外の付加価値税率の現状をしっかりと説明し、消費税率のアップは、年金、老人医療、高齢者介護など国民生活の充実に反映される(反映させる)ことをマニフェストに掲げ、国民の真の信頼を得られるような政党、政治家が現れるのは、いつの日であろうか。少子化対策も重要であるが、国家財政が破綻しては、元も子もないのである。財政危機が懸念されるような国に対して投資は行われない。転ばぬ先の杖ではないが、財政を始め、少子高齢化、食糧、資源、雇用など現在日本が抱えている問題をあらためて明確にし、日本の将来を真剣に考えるには、いい機会ではないだろうか。

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