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アナリストコラム

電機大手の先行きに光明か? −服部 隆生−

2010年04月23日

日本の大手電機メーカーの凋落、相対的な地位低下の話題には事欠かない。サムスン電子など韓国勢の躍進、Appleの復活、Googleの台頭など成長分野の最前線では日本企業の名はあまり聞かれない。足元は構造改革効果と需要の戻りにより、収益回復の途上にある日本の電機大手であるが、今後世界市場で巻き返しはできるのだろうか?筆者はその可能性は残されていると考えている。キーワードは環境と社会インフラだ。

近年日本の電機大手の業績拡大を支えたのはデジタル機器の世界的な販売増とそれに伴うデバイス(半導体や電子部品、液晶パネル等)の需要拡大である。今後を展望すれば、デジタル機器需要は新興市場ではまだ成長が続くとみられるが、世界全体では成長ペースの鈍化が避けられない。一方、新興国における社会インフラ(電力・交通・水など)や先進国でも今後の環境対応等のニーズがますます高まってくるだろう。インフラでは企画から機器販売、システム運用や保守サービスまで一貫してパッケージで提供できる日本の総合電機メーカーには最大の好機と考えられる。

最近成長の著しい太陽光発電や風力発電などでは、それだけに特化した強力なピュアプレーヤーは存在するが、日本ではそれら単体でなく、スマートグリッド(次世代送電線網)に関連する発電設備、送/配電機器、スマートメーター、蓄電池、電力管理システム、など要求される技術を幅広く有する総合電機メーカーがある。省エネなどこれまで培った技術がようやく本格的に活かされる時代になってきたことが追い風ともいえる。折しも、日立製作所や三菱電機では4月に社長が交代している。今年創業100周年を迎える日立製作所の新社長となった中西氏は社長就任会見で、創業の原点でもある社会インフラ事業・技術が大きく貢献できる時代がきているとの認識の下、情報通信システム技術で高度化された社会インフラを提供する「社会イノベーション事業」のグローバル展開を加速する姿勢を示した。元IBMの会長ルイス・ガースナー氏が著書「巨象も踊る」で、官僚的で融通の利かなかった従来の組織をどのように変革したか述べている。前述した電機大手もこれまで不採算分野の整理を進めてきたものの、まだ絞り込めていない印象もある。社長交代を機に大胆に事業再構築に踏み込めるか、コスト構造をもう一段改善できるか注目したい。

日本企業にチャンスと映るスマートグリッドは成長分野と見られているだけに、競争は世界的に厳しくなる気配を見せている。米国ではGEやIBM(両社は水インフラ分野でも猛攻勢をかけている)、Googleといった大企業に加えGrid Point、Itron、Silver Spring Networksなど特定分野に特化した新興企業も急速に存在感を増している。日本勢は蓄電池やグリッドに繋がる電気自動車(或いはプラグインハイブリッド車)の技術の優位性を活かせば、まだ勝算はあるものと考えられる。注力分野へのフォーカスとスピード感が鍵を握るだろう。

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