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アナリストコラム

第一生命上場 −堀部 吉胤−

2010年04月09日

4月1日に鳴り物入りで上場した第一生命保険(8750)の初値は売出価格14万円を14%上回る16万円。ほぼ市場のコンセンサス通りで、無難な滑り出しとなった。翌日に168,800円の高値を付けた後は、利食い売りに押され、保険株全般が出遅れ感から上昇する中では冴えない展開になっている。今後、株価に影響を与えそうなイベントとして、㈰15日のMSCIの組み入れ、㈪16日の特別配当1,000円(支払いは6月)の権利付最終日、㈫5月14日の決算発表と、そこから少し遅れるとみられる10/3期末のEV(エンベディッド・バリュー)の発表、㈬5月末のTOPIXの組み入れ、が挙げられよう。今後、2?3カ月かけて、パッシブ運用の買いや利食い売りが交錯しながら、株価はこなれていくだろう。

それではテクニカルな需給面での売り買いが一服した後のフェアバリューはいくらくらいだろうか? 生保の企業価値をみる代表的な指標で、株主への分配可能利益の現在価値を表すEV(修正純資産+既契約の将来価値)は、昨年9月末で2兆5,057億円。発行済株式数は1,000万株のため、1株当り250,570円となる。他の上場生保の9月末のEVはT&Dホールディングス(8795)が1兆1,364億円(1株当り3,337円)、ソニーフィナンシャルホールディングス(8729)が6,400億円程度(1株当り約29.4万円)。ソニーFHDにはソニー生命のEVにソニー銀行とソニー損保のNAV(純資産価値)約800億円を加味した。修正PBRとでもいうべき株価/EV倍率は、第一生命0.63倍、T&D HD0.71倍、ソニーFHD1.05倍となる(株価は8日終値で算出)。

これはあくまで昨年9月末のEVをもとにしたもの。EVに影響を与える要因として大きなものは、長期金利と株式市場の動向。長期金利が上昇すると資産の時価評価は減少するが、保険負債のデュレーションは資産のそれより長いため、負債の時価評価がそれ以上に減少するため、EVは増加する。昨年9月末以降の株式市場の上昇、長期金利の若干の上昇、下期に獲得した新契約の価値などを考慮し、10/3期末のEVは第一生命が約2兆9,000億円(1株当り約29万円)、T&D HD約1兆3,000億円(同約3,800円)、ソニーFHD9,000億円弱(同40万円強)とTIWでは試算している。尚、ソニーFHDは3月15日に資産運用方針の変更(利差配当商品については債券のみの安定運用とする)に伴い、既契約の将来価値の減算項目である「オプションと保証の時間価値」が減少することを主因にEVが1,876億円増加すると発表している。10/3期末のTIW予想EVをもとにした株価/EV倍率は、第一生命0.54倍、T&D HD0.62倍、ソニーFHD0.76倍となり、生保株全般として割安感が顕著。

成長性、流動性などを考慮すると、株価/EV倍率は、T&D HD≦第一生命<ソニーFHDが妥当と考える。現時点でT&D HDよりディスカウントされている要因としては、増資リスクの差が考えられる。T&D HDは今後の自己資本規制強化に備え昨年2度の増資を行い、既にEUソルベンシー㈼基準でも100%を超えているとしており、追加の増資懸念は乏しい。

大手損保との比較では、どうだろうか? 時価総額が拮抗しているMS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)の10/3期末のNAVは約2兆6,000億円(1株当り約4,000円)とTIWでは試算している。株価/NAV倍率は0.67倍。国内市場の成長が期待できない点では生損保とも大差ないが、大手損保は増資懸念がないことや、海外事業の成長の可能性が生保よりは高いとみられることから、損保の評価が生保よりやや高くて妥当と考える。ただし、長期金利上昇の恩恵は生保の方が大きいため、長期金利の先高感が高まれば、バリュエーションの格差は縮まろう。以上を勘案し、第一生命の株価は、当面、株価/EV倍率0.6倍相当の17万円台半ばを目指すと考える。

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