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アナリストコラム

「再び動き始めた自動車業界の合従連衡」 -高田 悟-

2010年03月26日

スズキとフォルクスワーゲン(VW)の資本提携が昨年末電撃的に発表された。VWはスズキの小型車を低コストで生産する技術に興味があり、スズキはVWからの環境技術導入を睨んだと言われる。また、スズキはインドでシェア約5割、一方VWは中国でトップ、ブラジルにも強い。世界の新車市場は5年後には8,000万台になると予想され、現在から約2,000万台膨らむがその殆どが新興国市場と見られる。2社が販売補完により其々シェアを伸ばし世界トップの販売台数を誇る強力な企業連合が誕生するかに思われた。

本年2月初旬のスズキ10年3月期3Q累計期間の決算説明会では当然ながら、この資本提携の目的に関心が集まった。会長からのメッセージは意外にも「販売面で一緒にやろうとすると(1足す1イコール2)にはならない、2以下だ。まずは生産面でシナジーを生み出す」であった。インドで800余りと言われるスズキ(マルチ)販売拠点に突然VWの看板が架かったらVW車が爆発的に売れるだろうか。逆に長年かけて築いた販売網は戦略が曖昧となり混乱し競争力を落とすかもしれない。VWの出資比率を2割未満に抑え独立性維持に拘るのはこうしたことが背景だろう。また生産面が強調されるのはかつての大型車中心のGMとの提携では素材面での効果はあったのかもしれぬが、部品の共通化など生産面で深く踏み込んだシナジーが図れなかったとの思いもあったのではないかと思われる。

90年代後半、独ダイムラーと米クライスラーの大型合併を機に「400万台クラブ」という言葉が拡がった。環境対応とコスト削減が重要となる中、生産規模400万台以上ない完成車メーカーは消滅するという意味で、これを契機に政治、技術、文化の壁を超え米GMやフォードなどを軸に合従連衡の嵐が吹き荒れた。世界の新車市場は上位10余りの集団で大多数を占めるという状況となった。その後01年9月の世界同時テロで流れは集中から分散に大きく変わり未だなお残る提携は「ルノー・日産」、「フォード・マツダ」位と言えよう。分散化の原因は直接的にはデトロイト3や三菱自動車など提携構成メンバー何れかの経営悪化だ。ただし、検証は難しいが、そもそも車造りの方向、考え、技術などに違いの大きいもの同士が先ず生産数量ありきで提携し、生産面で大きな成果が得られなかったことが本質的原因としてあったのではないだろうか。

リーマンショック後の同時不況、リストラを主とした業績V字回復を経て完成車メーカーは再び分散から集中に傾きつつある。ただし、かつてと異なり例えば電気自動車を軸とした三菱自動車と仏PSAとの提携のように生産や技術に中心を置き、資本関係はなくても弱い部分を補おうとするものが目立つ。環境問題からパワートレインが多様化し新興国メーカー台頭により低コストの車造りが一層重要となる中で必然的な動きと言えよう。こうした中、生産面でシナジーを生み、価格と性能が適正な魅力ある商品を送りだせる提携が結果販売を伸ばしウインウインの関係を築き今後成功して行くのではないかと考える。この意味でスズキ・VWの提携の進捗、新興国合弁工場での統一車台による2社の車の混合生産に踏み切るルノー・日産のシナジー強化の動きなどが特に注目される。        

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