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アナリストコラム

国際競争力維持・強化のための新たな政策対応に期待 -高辻 成彦-

2010年03月05日

08年9月のリーマンショック以降、急速に需要が落ち込んだ機械産業だが、ようやく一部では力強い動きになりつつある。

その最たる例は半導体製造装置業界だ。機械産業の中では唯一、需要が急回復。業界全体のBBレシオ(販売高に対する受注高の割合。1を超えれば受注が強く、好調な状況を示す)は09年6月から1を超えた状況が続き、受注高は09年10月から前年同月比プラスに転じている。今後メモリーメーカーからの投資が強まってくることが予想され、回復トレンドが続く可能性が高い。

建設機械業界は日米欧地域では依然厳しい需要環境が続いているものの、中国向けの需要回復は力強く、当地域では既に「回復」ではなく「拡大」が続いている。回復の遅れが懸念されていた工作機械業界も、09年12月から業界全体の受注高が前年同月比でプラスに転じ、ようやく底を脱した状況が生まれつつある。しかしながら自動車産業の設備投資意欲が依然弱く、機械産業の中では回復力が弱い。今のところ力強い回復が続いているのはツガミ(6101)くらいだ。同社はアジア向けの電子部品の需要増を追い風に、受注回復が顕著である。

機械産業にとって当面の関心事は、「中国の需要拡大がどこまで続くか」にある。日米欧地域の景気が芳しくない現状では、中国景気が後退すれば再び機械産業の需要も後退に向かう懸念がある。これは好調が続いている半導体製造装置業界も同様である。当業界の需要が急速に回復している背景には、アジア向けのPC需要増が一因にあると考えられるからだ。

人によっては、上海国際博覧会(上海万博、10年5月?10月開催予定)後に中国の景気が後退するのではと懸念する見方をしている方もいるだろう。過去に日本でも、オリンピック開催後などに景気が後退した例があるからだ。しかし現状では上海万博後に大規模な景気後退が起こる可能性は小さいと私は見ている。その理由は内陸での需要拡大の余地が依然大きく、中国景気の下支えになると考えているからだ。また、中国経済が日米欧地域の景気を支える構図になっている現状では、中国単独での大幅な金融引き締めは、各国との政策協調の観点から実施しにくいだろう。従って中国景気が若干弱含むことはあっても、大幅な景気後退の波が中国発で国内に押し寄せる懸念は今のところないと見る。

中国景気の行方以上に私が現在、懸念しているのは、国内産業の国際競争力の低下である。例として、工作機械業界で考えてみたい。

国内工作機械の生産額は1982年以来、長らく世界首位を守って来たが、09年は遂に首位から陥落した。首位は中国である。これまで国内自動車産業が生産拡大に一役買っていたが、自動車産業の設備投資の戻りは依然期待しにくく、リーマンショック前の需要の水準まで回復するには相当な時間がかかることが予想される。そうなると自動車産業向け以外の産業での需要開拓が必要になってくるが、一企業レベルで構造転換を図るには厳しいものがある。売上が戻らなければ、新たな技術革新に取り組む余力が生まれないからだ。

日米欧地域の需要の戻りが期待しにくく、中国など新興国向けの需要を中心に生き抜いていくとなると、必然的に低価格競争の波に飲まれることになる。付加価値の高い財やサービスを提供するプレミアム戦略を採れる企業は僅かであり、現在の経済状況が続けば今後企業淘汰が加速し、高度な技術力を企業が持っていても、低価格競争の波で技術力を死に至らしめる可能性がある。これは、工作機械業界に限った話ではなく、機械産業の他業界、そして機械産業以外の産業でも言えることと私は考えている。

これまで政府はエコカー減税やエコポイント制度など、緊急的な需要喚起策を打って来たが、国際競争力強化や経済成長のための施策は、環境分野を除けばまだはっきりした政策を打ち出せていない印象を受ける。緊急対応策とは別に、輸出規制の弾力化や産業再編の促進など、経済成長力、国際競争力を維持・強化するための新たな政策対応が今後は必要になって来るだろう。今後の政府の早期の政策対応に期待したい。

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