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アナリストコラム

改正貸金業法は予定通り6月に完全施行される可能性が高まった -堀部 吉胤-

2010年01月22日

2006年12月に成立した改正貸金業法は、2007年1月の1条施行(ヤミ金融に対する罰則強化)を皮切りに段階施行され、6月18日に眼目となる最終の4条施行を迎える予定。4条施行では、みなし弁済規定が廃止され(いわゆるグレーゾーン金利の廃止)、上限金利が18%(元本10万円未満は20%)に引下げられるとともに、年収の3分の1超の貸付を禁止する総量規制が導入されることになっている。

消費者金融、信販・カード会社は、既に4条施行を睨んで新規貸付の上限金利引下げ、与信強化を行ってきた。結果、金融危機による景気悪化と相まって個人事業主の資金繰りが悪化。一時は取締り強化により下火になっていたヤミ金業者の活動が再び活発化しているようである。こうした法改正による副作用に対し、昨年11月1日に日本経済新聞と時事通信社は、「政府が貸金業規制の緩和を検討」と報じた。最終施行前の見直しの余地を規定する改正貸金業法の附則67条に基づき、金融庁は11月13日に「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」(座長:大塚耕平内閣府副大臣)を設置すると発表。総量規制などの規制強化策の妥当性を協議することになった。

昨年12月9日には国民新党が総量規制を年収の3分の1以下から2分の1以下に引上げるなどの緩和策をまとめ、プロジェクトチームに提言。緩和策の中には、過払い金返還請求における弁護士報酬の上限を3%に規制することも盛込まれた。同月21日には貸金業法改正の急先鋒だった自民党の後藤田正純衆議院議員がブルームバーグ・ニュースのインタビューに対し、「消費者金融業界に対する日銀の資金供給があれば利用者の救済につながる」との宗旨替えともとれる発言を行った。弁護士、司法書士の過払い金返還請求に関する過剰報酬問題や相次ぐ脱税の発覚を受け、マスコミの論調が変化していることも加わり、株式市場では規制緩和期待が高まっていった。

しかし、1月19日に「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」の事務局長を務める田村謙治内閣府大臣政務官はブルームバーグ・ニュースのインタビューに対し、予定通り6月の完全施行を前提にしていると言明。大蔵省出身で業界に対する理解が深く、業界にとって希望の星である田村政務官の発言により、最終施行延期の目は消え、規制緩和期待も萎んだといえる。亀井静香郵政・金融担当大臣も従前から記者会見において、総量規制の緩和など法改正が必要な抜本的な見直しは行わず、運用上の問題を検討するにとどめる旨の発言をしてきた。

結局、事業性資金に対する総量規制緩和はあっても、消費者向けに関しては、とりあえずこのまま予定通りやってみようということになりそうだ。過払い金返還請求に関する弁護士報酬は、着手金と報酬金を合わせると利息返還金の3?4割程度になるケース多いようであり、報酬の上限が3%に規制されれば、広告宣伝活動が困難になり、高止まりが続いている過払い金返還請求が急減するだろう。これなら総量規制の緩和と違って社会的な反発もない筈だ。しかし、弁護士出身の代議士が多い中、弁護士報酬の規制は難しいと考えざるをえない。消費者金融の利用者の約半分は年収の3分の1以上の借入があるとされ、総量規制が導入されると新規借入ができなくなり、資金繰り悪化から過払い金返還請求、自己破産が再度急増する恐れがある。その余波は信販・カード会社に及ぶだろう。大きな不安を抱えながら、最終施行は刻一刻と迫っている。

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