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アナリストコラム

現政権の財政出動は機械産業の光明となるだろうか -高辻 成彦-

2009年12月18日

前回のメルマガ(09年10月16日配信)にて、「(政府が)別途、時限的に何らかの施策を講じる必要性が今後出て来ることも有り得る」と述べたが案の定、鳩山内閣(以下、現政権)は財政出動する方針のようだ。

現政権は12月15日に「予算編成の基本方針」を閣議決定したが、この方針の中で、来年度予算編成では国債新規発行額を約44兆円以内に抑える旨が記されている。「約」とは、44兆円を越える財政出動が行われる可能性があることの含みであると思われ、積極的な財政出動を求める社民党や国民新党への配慮と推察される。報道によれば、埋蔵金(日本政府における特別会計の剰余金や積立金)活用も視野に入れた財政出動を図るようだ。

景気回復への有効な政策実施を現政権に期待することは言うまでもないが、機械産業の場合、仮に現政権において大規模な財政出動が実施されたとしても、現状では経済波及効果が限定的になる可能性が高いことが難点である。

例えば、エコポイント制度を一定期間延長したとしても、直接的な波及効果を受けられるのは家電業界である。政策実施によって液晶テレビなどが継続的に売れる経済状況にまで回復しなければ、半導体製造装置業界や工作機械業界への本格的な波及は期待しづらいだろう。

また、エコカー減税を一定期間延長したとしても、直接的な波及効果を得られるのは自動車産業である。自動車業界が本格的に立ち直るほどの規模のものでない限り、工作機械業界への波及は限定的になる可能性が高いだろう。

ここ数ヶ月間の工作機械メーカー各社への取材では、エコカー減税で自動車産業の設備投資需要が戻って来たという声は特に聞かれなかった。しかしある部品メーカーでは、エコカー減税の政策効果による需要回復の声が聞かれた。この差は、現在のエコカー減税の政策効果が設備投資までには浸透していないことの現れと私は見ている。

思うに、現在の厳しい経済状況では、暫定的に大規模な財政出動を行うにしても、「どのような産業のあり方を目指すのか(産業ビジョンの策定)」、「どのような過程で景気回復及び経済成長を図るか(作業工程表の作成)」といった、経済成長戦略を現政権が早期に示さない限り、企業の設備投資意欲はなかなか戻らないのではないだろうか。先々の経済状況が不透明な中で設備投資を行う企業はまずいないと思うからだ。

更に悩ましいのは、現政権は需要側(家計)重視の印象を受けることだ。

現政権は12月15日に成長戦略策定会議(議長は内閣総理大臣)の開催を閣議決定し、16日に検討チームの会合を開いた。報道によればこの会合で、菅直人副総理兼国家戦略相と竹中平蔵慶應義塾大学教授が論戦を繰り広げたようだ。竹中氏は「経済成長の基礎は供給側(企業)」と主張したのに対し、菅氏は「企業の競争力を高めてもマクロでは成長しない」と反論した模様。この論戦は、需要側を重視する現政権の政策スタンスを象徴するものと言えよう。

需要側を支えるセーフティーネットの発動・継続は、現在の経済状況を踏まえれば必要だが、同時に供給側を元気付ける政策を実施しなければ、景気回復の道筋はなかなか見えて来ないと私は考えている。今の政策スタンスのままでは、財政出動しても機械業界にとって光明になる可能性は低いだろう。現政権には、出来るだけ実施事業の経済波及効果を検証した上で、供給側の視点も踏まえた政策実施を期待したい。

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