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アナリストコラム

5年後の化学業界は農業事業の黎明期となるか -高橋 俊郎-

2009年12月11日

化学業界は、著名な学者である伊丹敬之氏が述べているように、㈰化学という言葉は、技術の分野の名称、あるいはその技術を支える科学分野の名称である(通常は「何々をつくる産業」という産業名のつけ方[自動車産業]など)、㈪顧客は、化学技術を駆使してつくられたさまざまな物質の機能が必要だから化学製品を買っている、などの特徴がある。『日本の化学産業 なぜ世界に立ち遅れたのか』『談論風発 化学を哲学する』より。

化学業界の製造品は、主に部材であり、顧客は様々な機能を必要としている。そのため、化学業界は顧客対応のため要素技術を深耕し、その結果、多角化が進みやすい。投資家側から見た場合、多角化よりも強みのある事業を専業化することが良いとの考え方もあろうが、製造するものが機能を必要とされており、その中での派生技術の応用として多角化が行いやすいという面がある。そのため、様々な可能性がある化学業界であるが、5年後(2016年3月期)辺りから、その後の成長が期待できそうなものは何かと考えてみた。2次情報を見る限りでは、農業関連事業が比較的進行しているようだ。

統計によると、現在、国内の肥料の市場規模は4,000億円程度、農業生産は10兆円程度。加工・流通関連の周辺を含めると消費金額ベースでは80兆円を超えている模様である。また、改正農地法が施行され農業分野は事業拡大の可能性が高いと考えられる。

その中で、2015年度見込みとして数値が挙がっていたのは、住友化学と三菱ケミカルHDである。農薬・肥料の国内最大手である住友化学は、現在も農業化学は堅調であり、業績貢献は大きい。同社の場合は今後5年間で30-40ヵ所の農場を展開予定。15年度には売上高50億円を目指す。すでに長野県でイチゴ栽培を開始しており、肥料からの生産販売の一貫体制を目指す。また、三菱ケミカルHDは野菜工場事業に注力。これは太陽電池を電源とし、LED(発光ダイオード)の照明を利用し栽培を効率化するものであり現在実験中である。また、既存製品の改良として子会社で生分解性の農業シート(マルチと呼ばれる製品で土の上に敷くもの、雑草対策や保水対策となる。生分解性樹脂のため数ヵ月で土にかえる)の低価格化により、シートで2015年度に25億円を見込む。具体的数値は掲げていないが、昭和電工は光合成を促す赤色を強めたLEDを開発した模様である。

それぞれの事業規模の目標金額はそれほど大きくはない。また、農場経営や野菜工場事業以外の製品は既存のものである。しかし、農業に対する注目が集まり高効率化を実現する場合には、現在の、肥料、農薬、照明、フィルム、さらに水処理膜やSAP(高吸水性樹脂)の技術が深耕され機能が向上するだろう。特に農薬やSAP、水処理膜などは海外展開も含め有望であると考える。だが、今回の5年後の農業事業で注目するところは、機能ではなく最終製品を売りに行くという方向性を出しているところである。

最終製品以降もさらに事業拡大するには、加工・流通までの川下事業の展開となるが、その分野では本業メーカーも多く、流通販路、ブランドの確立など難問も多く、競争は激しいだろう。しかし、2015年以降、2020年や2025年近傍では化学メーカーが部材供給に留まらず、農場経営から、加工・消費の分野でも影響力を持ち始める可能性がないとは言い切れないだろう。化学業界の農業事業の行方に注目していきたい。

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