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アナリストコラム

企業の長期的な経営の方向性を見る視点を養う -服部 隆生-

2009年11月27日

事業環境に変化は付き物である。筆者の担当する電機・精密セクターを見ると、創業事業と現在の主力/コア事業の異なる企業も多々ある。時代の変化、新たな市場・ニーズに対応して進化できる会社が現在生き残ったとの見方もできるだろう。海軍向けの潜望鏡や測距儀を国産化するため1917年に設立されたニコン(当時は日本光学工業)は望遠鏡やカメラ向けレンズ等を作っていたが、戦後普及拡大しつつあったカメラに参入。50年には朝鮮戦争に従軍した米Life誌カメラマンがNYTimesで同社のカメラを絶賛したことをきっかけに「Nikon」のブランドが世界に広まった。次は精密測定技術を当時成長の兆しの見え始めていた半導体分野に活かせないものかと考え、半導体露光装置の開発に繋がっていく。そして、現在はカメラの映像事業と半導体/液晶露光装置の精機事業の二つの柱で収益を稼ぐ企業体質を築き上げた。

また、1919年顕微鏡の国産化を目的に高千穂製作所としてスタートしたオリンパスも、戦後胃カメラの開発に着手し、現在では世界トップシェアの軟性内視鏡で大半の利益を上げる企業に変貌した歴史を持つ。    

一方、現在進行中の変化も注目される。有名なところでは、液晶テレビや太陽電池でパイオニア的な役割を果たしたシャープが挙げられる。シャープは50年以上前から太陽電池の開発を続けてきたが黒字化したのは90年代も終わり近くになってからとみられ、利益が出るようになるまで40年程度かかった計算になる。現在もまだ全体の収益を牽引する程の事業ではないものの、長い目で見れば同社の収益を支える柱となりうるビジネスと考えられる。

次に、シスメックスと日本電産を見てみよう。現在のシスメックスは血球計数装置など検体検査装置メーカーであるが、将来の成長持続を見据えて、がんの疾患マネジメント(リンパ節中のがん転移の迅速診断や再発の予測など)といったライフサイエンス分野を育成、事業領域の拡大を志向している。日本電産もこれまで注力してきたHDDモータが現在では収益源となっているが、将来的にはHDDのフラッシュメモリへの置き換えなど市場そのものの成長性が止まるリスクもあることから、車載や家電用の中型モータに活路を求めている。自動車用モータが今後高い効率と省エネ設計のブラシレスタイプが主流になるとの信念のもと、同分野に積極的に資金を投下。現在同分野は初期投資段階なので開発費用が嵩み赤字を計上しているが、たとえ現在の利益率を若干落としても中長期的な成長シナリオに向けて邁進している例といえよう。

ここまで幾つかの例を見てきたが、もちろん事業領域の拡大、新規コア事業の開拓が上手くいくとは限らない。むしろ失敗例の方が多いくらいだ。悩ましいのは、比較的安定した収益を確保できているコア事業の得た利益を新規事業の赤字で食いつぶすケース、新たに始めた事業がなかなか立ち上がらず全体の足を引っ張るケースなどである。どこまで、或いはいつまで許容できるかは難しい問題である。技術自体が優れていても、世の中のニーズとミスマッチがあったり、時期尚早であったり、様々な理由から期待通りに事が進まない場合もあるだろう。新たな事業の成否を占うことは特に外部から見れば極めて困難と考えられるが、その企業がどういう中長期のビジョンを持ち、どんな自社の強みを活かして、どんな会社にしたいのか見極める必要がある。

経験則的に言えることは、過去に失敗をした会社の場合、なぜ上手く行かなかったのか原因を究明した上で再チャレンジした会社は成功する確率も高い。企業に四半期業績の開示が求められる今日この頃、投資家・アナリストの視点も短期的な収益動向に集まる傾向があることは否めない。しかし、中長期的な視点も重要であることを改めて認識したい。

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