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アナリストコラム

NT倍率が高止まりしていることに危うさを感じる -坪井 信行-

2009年11月13日

ここ数カ月、いわゆるNT倍率が高止まりしている。本日の引け時点でも11.27倍(現物指数ベース)となっており、引き続き高い水準を維持している。
NT倍率は、いうまでもなく日経平均株価をTOPIXで除したものだが、その水準が高いというのはどういうことを意味しているのだろうか。

日経平均は、225銘柄の株価を一定の除数で割ったものであり、単純平均に近い正確をもつ。その計算方式から、値がさ株の値動きの影響を強く受けることになる。具体的にいえば、昨今の日経平均はファーストリテイリングなどの銘柄が上下するのにつれて動いているように見える。これを揶揄して日経平均を、「日経ユニクロ平均株価」と呼ぶ向きもあるようだ。
過去1カ月(10月13日終値?11月13日終値)の株価変動を見ると、ファーストリテイリングは3,480円上昇している。同期間に日経平均株価は306.25円(3.0%)下落している。ファーストリテイリングの貢献分は141円強である。仮にファーストリテイリングがなければ、日経平均はさらに141円下落した計算になる。まさに「ユニクロさまさま」といった状況だ。
一方、TOPIXは東証1部全体の値動きを基本的には時価総額ベースでトレースするため、特定銘柄の動きだけに大きく左右されることは少ない。もちろん、時価総額の大きな銘柄の株価変動があれば、それにつれてTOPIXも変動する。ある意味、株式相場全体の温度感を測るのに適した指標でもある。ちなみにTOPIXは、過去1カ月に34.6ポイント(3.8%)下落している。

こうして比べてみると、TOPIXの方が実感に近い動きになっている。それは考えてみれば当たり前のことで、ごく少数の銘柄の値動きだけを反映する日経平均は、株価インデックスとしては、欠陥があると言わざるを得ない。しかし、とりわけ個人投資家にとっては日経平均が最も身近な指標であり、相場を見るに際しては、不可欠のものになっているのも事実である。

さて、ここからが本題だが、昨今、NT倍率が高止まりしているのは、相場にバイアスがかかっていることを示唆しているのではないだろうかと私は考えている。特定(少数)の銘柄を集中的に支えることで、日経平均は相対的に高くすることが可能だからだ。
確かにファーストリテイリングは、超優良企業であり、現在の業績動向もバラ色の状況である。しかし、日本経済がユニクロによって支えられているとは、到底考えられない。ひとつの優良企業の動向だけで日本経済がどうこうなるものではない。むしろ、ユニクロが好調なのは、日本経済が苦境(デフレ)に陥っているからこそという面すらある。

NT倍率が高止まっているということは、少数の銘柄によって日経平均が割高になっていることを意味しているのではないだろうか。そうだとすれば、遠からずその歪みは是正される可能性が高い。
NT倍率が高いということは、所詮、少数の銘柄によって支えられたものであり、いつまでも維持できるものではないだろう。
日経平均の構成銘柄には、ハイテク銘柄など円高による悪影響が懸念されるものも多く、一段の円高進行などが下落へのトリガーになる可能性もある。ユニクロの絶好調を織り込む株価にしても、成長性への疑問が出た瞬間に逆回転に入るかもしれない。

個人投資家として相場に臨むとき、日経平均よりもTOPIXの動向をしっかり見極めることが大事だと指摘したい。
ちなみに日経平均が今年の最安値をつけた3月10日時点で、NT倍率は10.03倍であった。仮にNT倍率がこの水準に戻れば、日経平均はTOPIXに対して11%の下落余地があるといえる。

蛇足ながら、NT倍率そのものを取引する方法もある。日経平均先物とTOPIX先物を反対方向に売買すれば、NT倍率を売買したのと同じことになる。NT倍率が割高だと考えるなら、日経平均先物をショートし、TOPIX先物をロングすれば良い。逆も同様である。

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