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アナリストコラム

希望を捨てる勇気 -藤根靖晃-

2009年10月23日

池田信夫著「希望を捨てる勇気」(ダイヤモンド社)は、現代社会、経済を捉える上で必ず読んでおきたい一冊である。
「格差の正体」を正社員の既得権保護にあるとして、それが労働市場の閉塞性による失業率の拡大を齎し、はみ出すことに対するリスクが本来優秀な人材のノン・ワーキングリッチ(=閑職)を生み出しているという構造とそれが成長の阻害要因になっていることを論理的に説明している。
日本の長期低迷は、正社員の過剰な保護と公共投資による過剰な景気対策が行われたことで、適正な淘汰が抑止されたことと、イノベーションの停滞にあると説明している。
もはや現状では、財政政策、金融政策の効果が期待できないことを示す中で、再生への処方箋として株主資本主義の必要性と、創造的破壊の必要性を説く。

最初から最後までスリリングな中身が一杯詰まっており、薄らぼんやりと(小職を含めて)多くの人が抱いていた日本社会・経済についての疑問に対して、明快な回答を与えてくれている。
特に「地獄への道は善意で舗装されている」という件が面白い。解雇規制、派遣禁止、借地借家法、過払い金返還問題など、”事後の正義”=事後的には正しいようにみえる判決や規制が、事前に分かっているとインセンティブをゆがめ、非効率な結果をもたらすことを事後の正義とよぶ(本文抜粋)が、相対的適正というトレードオフを否定し、日本の社会・経済をヒステリックなものに変えてきた過程を説明している。

著名の「希望を捨てる勇気」とは何であろうか?
日本は何度も危機を乗り越えて来たから何とかなる。お上(政治)が何とかしてくれる。自分はなんとか逃れられる。こうした根拠の薄い希望(=幻想)を皆が捨てて現実的に立ち向かうことこそが求められることなのであろう。
結局は己の仕事力を愚直に磨くしかない(スキルというと資格試験やノウハウ系のイメージがあるのでここでは使わない)。苦手を克服し、自立した精神を構築する努力が各人に求められるのではないだろうか。


余談だが、一方で現実を直視すればするほど、人々は貯蓄、倹約、自己保身、といった行動パターンがさらに加速させて、合成の誤謬を拡大させる可能性がある。その結果としての内需の停滞の継続と投資マインドの低下による日本の株式市場の停滞はまだまだ続くのかもしれない。個人的には、財政赤字拡大によって金利のじり高と円安傾向に向かうと考えており、輸出関連(電子部品、自動車、ハイテク素材)回復と(ユニクロや低価格飲食店などの)生活防衛関連を注視している。

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