メニュー
アナリストコラム

民主党政権下のグリーン政策に期待 -服部隆生-

2009年09月25日

民主党は環境政策では従来政権以上に厳しい目標を掲げている。鳩山首相は9月22日の国連演説で、日本は温室効果ガスを2020年までに1990年比25%削減すると表明した。産業界の一部では悲鳴のような声が聞こえる他、マスコミでも個人負担増の側面だけが強調されている。しかし、全体的に見ればプラスの効果がはるかに大きいと筆者は考えている。日本が温室効果ガスの大幅抑制で世界をリードする姿勢を示したことで、グリーンニューディールなどの取組みを先進国から新興国へ拡げる可能性もあるだろう。加えて、意欲的な目標設定が産業界の技術革新を加速させる触媒の役割を果たすことも期待される。

温室効果ガスの排出抑制に関しては、発電段階、産業界(工場やオフィスなど)、家庭、交通など各々の場面での取組みが求められる。発電段階では化石燃料から、クリーンでグリーンな再生可能エネルギーへの大転換が最大のテーマとなる。もちろん、交通ではハイブリッド車/電気自動車への流れは加速するとみられる他、家庭でも省エネ家電やLED照明など潜在需要は大きく、関連企業には強力なフォローの風といえる。世界的に見れば、高速鉄道も拡大余地が大きく、単なる車両生産だけでなく安全運行技術など長年の蓄積を持つ日本のメーカーにも商機があるだろう。

政策的には、再生可能エネルギーの助成とキャップアンドトレード型排出権取引の創設(制度の詳細はここでは割愛する)が重要なポイントとなる。日本では、太陽光、風力、バイオマスといった再生可能エネルギーは総発電量の僅か1%足らずを現在賄っているにすぎない。米国では再生可能エネルギーのシェアを2025年までに25%に、欧州(EU)でも2020年までに同地域の消費エネルギーの20%にまで引き上げる計画を打ち出しており、日本も欧米並みかそれ以上のペースで今後移行を進めていく必要がある。エネルギーの化石燃料依存からの脱却方法として原子力発電も現在有効な手段の一つではあるが、幾つかの点から課題を抱えており、筆者個人的には太陽光発電を含めた自然エネルギーが最良の選択と考えている。原子力発電では、現在懸念されている核の拡散問題の他にも、安全性の実証、燃料であるウランの有限性、設備稼働後にも巨額の維持/保守費用がかかることなどから、あくまで補完的な位置づけになると見る。ただ、CO2削減効果、発電量の大きさなどから、世界での原子力発電需要自体は当面高水準で推移するだろう。

一方、長期的にはやはり太陽光発電を含めた再生可能エネルギー利用の拡大が温室効果ガス抑制の最大の鍵を握っている。1時間の照射で世界の1年分の全消費電力を賄える太陽光は、エネルギー源としてはこれに勝るものはないだろう。課題はコストであるが、固定価格買取制度など世界的な普及支援策の効果もあり、太陽電池の生産拡大と変換効率向上も相俟って、製造コストは着実に低減されている。従来の化石燃料ベースの発電所は大量一括で発電し、送電線網で消費地に電力を供給するシステムであるが、送電ロスもあり無駄も多い。今後は再生エネルギーへ軸足を移すことにより、地産地消型の分散型発電スタイルが増え、最近話題となっているスマートグリッドが本格展開されるだろう。別の言い方をすれば、発電所から利用者へ一方通行だったものが、利用者自体が発電も行う双方向型となる。従って、通信技術や適正な電力制御が重要となり、スマートメーターと呼ばれる測定装置の需要も爆発的な拡大余地を秘めている。こうした分野には既にGoogleやIBMといった大企業も参入しており、成長ポテンシャルの高さを物語っている。日本企業でも例えば東芝などは社会インフラや通信・デジタル技術、蓄電池など複合的なテクノロジー、電力会社とのパイプを擁しており、ビジネスチャンスは非常に大きいと考えられる。太陽電池セルや風力発電の機器自体を製造していない企業でも、今後は付加価値がサービスなど川下にシフトしていくと考えられ、システムプロバイダーとして生きる道もあるだろう。

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る