メニュー
アナリストコラム

エコカー販売支援策と国内自動車業界への影響 -高田悟-

2009年08月28日

本年1月にドイツでスクラップインセンティブ(新車買換補助金、以下補助金)が導入された。その後、同様の公的販売支援策が欧州諸国、アジア、米州へ伝播した。政府支援策は減税であったり、補助金のみであったり、両方を組み合わせたりと国により多少違いはある。ただし景気対策として自動車需要を押し上げる、と同時に環境政策の推進に役立てるという2点で共通する。ハイブリッド車や低燃費・低排気量のガソリンエンジン車など一定の環境基準を満たす車のみが対象になることが一般的なため販売支援策は「エコカー販売支援策」と言うことができよう。

特に補助金は定額である場合が殆どで小型車・低価格車ほどメリットは大きい。事実スズキはインドから小型車の欧州向け輸出を増やした。また排気量1,600CC以下の車を減税対象とした中国では小型車のラインアップを多く揃える日産が1-6月の半年間は前年同期間に比べ40%強、乗用車の販売を増やした。また国内では6月(4月に遡り適用)に補助金が導入され、ハイブリッド車はガソリンエンジン車に比べランニングコストを含めた場合のお買い得感が強まり人気が急騰した。

こうした中、在庫調整が終わり、足元では国内完成車メーカー各社の生産がエコカーを中心に上向き始めた。トヨタハイブリッド車「プリウス」など人気車種は受注に生産が追いつかない模様である。10/3期1Q決算では上期(4-9月)赤字見込みのホンダが黒字、通期赤字見込みの日産は営業段階黒字で着地。直前四半期から赤字を激減させたトヨタは計画を上方修正した。各社の市場予想を上回る業績回復が大きなサプライズとなった。最悪期には工場稼動率が前の年の5割程度へ落ち込む中で行ったコスト削減が早期業績回復に大きく寄与した。別の見方をすれば今回の決算は非常事態下での必死の体質改善で各社の採算ライン売上高が従来に比べ大きく低下したことを示したとも言えよう。このため今後は緩やかな需要、販売増でも利益が急回復する可能性が出てきたとも言えそうだ。
とはいえ足元の需要、生産回復は各国のエコカー販売支援策の需要押し上げ効果が大きい。支援終了後の反動が懸念される。新興国では潜在需要が刺激され息の長い需要が続く可能性はあるが、先進国市場ではとてもそんなことは言えない。ただしこの自動車不況と不況脱出に向けた公的支援を通じて明確になったことが2つある。1つはガソリンエンジンの後を目指す時代に確実に入ったということ、もう一つは環境対応車や小型車で稼ぐことが重要だということである。国内完成車メーカーはハイブリッド車などで先行、従来から小型車には強い。新たな成長のチャンスが来ているとも言えよう。昨日の日経新聞夕刊に米国での低燃費車への買換支援制度の結果が出ていた。記事では上位3車種を日系車が占めた。明るくなったとは言え不透明感が強い中での好ニュースとして最後につけ加えたい。

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る