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アナリストコラム

動き出し始めた不動産 -堀部吉胤-

2009年07月03日

流動性が枯渇していた不動産流通市場において、潮目が変わったことを窺わせるディールが6月に2件あった。1件は、6月25日に日本プライムリアルティ投資法人(JPR)がスポンサーの東京建物との間で行なった物件の交換。JPRが東京建物から錦糸町の「オリナスタワー」を313億円(キャップレート5.4%)で取得した一方、「明治安田生命梅田ビル」と空室が長期化している仙台の商業施設「シュトラッセ一番町」を計124億円で売却。JPRの取得額の方が大きいため、JPRは210億円の新たな資金調達を行なった。4月に三井不動産系の日本ビルファンド投資法人が「駿河台プロジェクト」取得のために210億円を調達した事例があるが、これはフォワードコミットメントの案件であり、純粋な新規取得のためにREITが資金調達できたのはリーマンショック後初めてとなる。

もう1件のディールは、6月30日に不動産ファンド運用会社のケネディクス(4321)が発表した「KDX豊洲グランスクエア」の売却。買い手は世界最大級のプライベート・エクイティ投資会社のカーライル・グループが運用するファンド。売却価格は明らかにされていないが、350億円弱(キャップレート約7%)だったとみられる。「KDX豊洲グランスクエア」はケネディクスが開発した中では最大の案件で(延床面積1万9,327坪)、昨年5月に竣工。400億円程度で購入する予定だったドイツの投資家が3月に手を引き、売却が不安視されていたが、売却価格を引下げ何とか売却にこぎつけた。リーマンショック後に私募ファンドによる大型物件の取得が顕在化したのは初めて。デットのアレンジはケネディクスが行なったとしており、カーライルは邦銀から資金調達したようである。

リーマンショック後の不動産取引は、個人富裕層ないし個人に近い事業法人による資金調達の必要のない10億円くらいまでの賃貸マンションの取得が中心であった。金融機関は不動産会社、REIT、私募ファンドに対して、リファイナンスに応じるのが精一杯だったが、メガバンクが資本増強により貸出余力を高めたことに加え、設備投資の冷え込みにより資金需要が落ち込む中で収益を確保するため、不動産融資を再び積極化し始めたとみられる。


夏頃には三菱地所系のジャパンリアルエステイト投資法人など信用力の高いREITのPOが再開されるとの観測が広がっている。REITの物件取得は総て開示されるため、キャップレートが明らかになり、これまで気配値を切り下げてきたような状況を脱するだろう。これを受けて底値を確認しようと様子見を続けてきた有力私募ファンドも物件取得に動き出し、不動産の流動性が回復していくことが期待される。

オフィスビルのファンダメンタルズはまだ悪化の過程にあることや、9月に償還期を迎える「パシフィックセンチュリープレイス」(ダヴィンチ・ホールディングスが運用する私募ファンドが保有)のリファイナンス懸念など楽観できない要素はあるものの、不動産の流動性が回復に向かっていることは間違いないといえるだろう。

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