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アナリストコラム

電気自動車(EV)は本格的に普及するのだろうか -高田悟-

2009年06月26日

国内でエコカー減税が実施され、トヨタやホンダのハイブリッドカー(HEV)の売行きが好調な一方で最近電気自動車(EV)を巡るニュースや記事に接する機会が多い。この夏、三菱自動車からEV「アイ・ミーブ」が一般向けに発売される、日産自動車が来年量産を始める計画を発表した、などから注目が高まっているのだろう。また、HEV車では現在はニッケル水素電池搭載が主流だが、EVではより軽量、小型化が可能で高出入力密度などの特徴を持つリチウムイオン電池が搭載されることが一層関心を高めているようだ。日産自動車などはHEVで出遅れたものの、EV市場の成長ポテンシャルを踏まえ次世代自動車の開発ではEVに集中する戦略を採って行く模様だ。

最近の報道では今すぐにでもガソリンエンジン車の時代が終わりEVの世界に変わってしまいそうな勢いである。本当にそうなったらどうなるのだろうと近頃取り留めもなく考える。先ずエンジンがなくなりエンジン関連の部品は要らなくなる。排ガスが出ないから排気系部品も不要となるだろう。航続距離を出すために軽量化がより重要となるため車体が樹脂や繊維に変わり、生産工程はプレス溶接から成形や接着に変わるかもしれない。子供のころ乾電池でモーターを回して走るプラモデルのスポーツカーをよく作ったが、筆者には車の世の中がプラモデルの世界になるようなイメージだ。おそらく自動車生産は素材から部品、技術、工程と大きく変わって行くのだろう。

突然湧いたようなEVの話だが今後HEVのように本格的に普及するのだろうか。実はEVの歴史はガソリン車より古い。何度かブーム化しそうになった。EVは1873年に英国人が作り次第に広がった。1912年の米国では4万台のEVが走っていたそうだ。しかし、1908年に米フォード・モーターが「T型フォード」を発売すると流れは一気にガソリンエンジン車に傾く。その後国内では戦後のガソリン不足により、また1970年代の石油危機や1990年代の米カルフォルニア州の環境規制などによりしばしば国内外で見直されブームが起きたが、そもそも電池容量に限界があり、何れも長続きしなかった。しかし今回はこれまでと大きく異なる。(1)環境や資源対策の側面から公的に普及支援のムードが強いこと、(2)パソコンや携帯電話の普及で電池技術が大きく進歩したこと、がポイントだ。大手が揃って開発に傾注すれば本格的なブームとなる可能性は高いだろう。

とはいえ、まだ性能面、コスト面、社会インフラ面などで多くの課題を抱える。先ずは航続距離だ。「アイ・ミーブ」のフル充電での航続距離は僅か160kmである。エアコン使用、雨天・夜間走行など悪条件が重なると航続距離は大幅に落ちる。また、走行時の電気不足に備えた充電施設整備が問題となる。普及に合わせコンビニなどに設置を進めるが、当座の走行に必要な充電には30分程度かかる。EV本格普及には莫大な数の充電器や充電場所、若しくは充電時間の短縮が必要に思える。最後はコストだ。電池が高く軽自動車並みの車両クラスでも500万円弱程度の価格となる。現行の補助金を勘案してもHEVとは大きな差がある。本格普及には(1)電池の更なる進化による航続距離の拡大、(2)量産によるコストダウン、などが必要で解決のハードルは高いため本格普及にはまだかなりの年数がかかると思われる。しかし地域限定型、公共交通、などに使用目的を限定すれば十分利用可能な段階にこぎつけたと言えよう。また諸課題が解決されれば、一気に普及が進む可能性もあり、この意味でガソリンエンジン車の絶対的優位の時代が終わり車の世界は確実に大転換期に入ったと言えるだろう。

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