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アナリストコラム

日本の太陽電池メーカーの課題 -服部隆生-

2009年04月03日

クリーンエネルギーが世界的に脚光を浴びている。昨年のピークからは原油価格が下落したとはいえ、地球環境維持の観点からも化石燃料頼みがこれ以上持続可能と考えられないことから、太陽光、風力、地熱、海洋(潮力・波力)などの再生可能エネルギーへの期待が集まる。米国ではグリーン・ニューディールを掲げる他、世界各国でクリーンエネルギー導入を加速する政策が打ち出されている。自然エネルギーの問題点は出力の安定性(天候に左右されやすい)であるが、蓄電技術の進歩により将来的には課題は解決に向かうだろう。スマートグリッドと呼ばれる太陽光や風力発電で得られた電力を、IT技術を駆使することで効率良く制御し地域で融通しあう分散型発電のコンセプトも注目に値する。

2004年まで世界最大の太陽光発電の累積発電量を誇っていた日本も、05年からはドイツに抜かれ、06年度の国内太陽電池システムの導入件数は初めて前年度を下回った。こうした低迷を受け、日本でも太陽光発電の導入を20年に現在の20倍、30年には40倍にするという目標の下、最近相次いで太陽光発電の利用促進に向けた政策が打ち出された。具体的には、今年1月からはシステム購入時の初期費用を軽減する為に補助金制度もスタートした他、太陽光発電により得られた電力を電力会社が従来の2倍弱の高値で買い取る仕組みが2010年度から導入される見通しとなった。この固定価格買取制度はドイツなど欧州を中心に近年太陽光発電需要の急拡大を後押ししたFIT(Feed-in Tariff)と基本的には同様の仕組みだ。近年やや停滞感のある国内太陽電池メーカーに追い風といえよう。

数年前まで世界シェア上位を独占していた日本の太陽電池メーカーであるが、近年はドイツのQ-Cellsの他、米国のFirst Solarや中国のSuntech Powerがトップ5入りを果たし、国内メーカーの相対的な地位は顕著に低下している。
これには次に挙げる要因が考えられる。(1)シリコン原料の調達で日本勢が失敗したこと(海外勢は長期契約で安定調達を確保した一方、日系メーカーはシリコン原料価格高騰の中で後手に回った)、(2)政府サポートの違い(海外では支援加速の流れの中で、日本は補助金が打ち切られた)、(3)結晶系以外でも薄膜型や金属化合物型など低コストの太陽電池が実用レベルに達したこと、(4)製造装置の性能向上により、新規参入企業でも簡単に製造できるようになったこと、などである。

足元の太陽電池市場は短期的な調整局面にある。昨年前半までは世界的な金余りを背景に、太陽電池関連産業に過剰な資金が集まり、多少バブルの様相を呈していた。その後の金融危機に端を発する世界同時不況の影響により、新規参入組の中には資金繰り悪化に苦しむメーカーが続出しており、今後は更に企業淘汰が進展すると予想される。近年シェアを落とした日本勢は技術的には依然優位性を保っている。しかし、半導体や液晶パネルがそうであったように、一旦世界での優位性を失うとそれを回復するのは極めて困難で、ますますその格差は拡大方向に向かう傾向がある。日本のメーカーは太陽電池の変換効率では世界の最高水準を走っている。今後日本メーカーが注意しなければいけないのは、高付加価値製品だから高い価格でも売れる訳ではないということだ。他の多くの電機製品もそうであるが、部品性能の向上により比較的低価格でも品質はまずまずという海外メーカーの製品が市場シェアを急速に高めたケースは多い。太陽電池もコストと性能のバランスが重視されるステージに入ると考えられる。設置面積の狭い日本の住宅などには高性能の結晶系、1年の殆どが晴天に恵まれた広大な空間ではコスト競争力の高い薄膜系といった具合に棲み分けも必要となろう。結晶系や薄膜系など、各カテゴリーの中でも海外メーカーとの価格競争が激しくなることは目に見えており、今後はいかにコスト低減できるかが重要な課題といえる。


 

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