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アナリストコラム

ファミリー企業は不況に強いか!? -藤根靖晃-

2009年02月20日

Bloombergで東洋経済予想をベースとして、今期、来期経常増益、営業利益率(実績)10%以上という条件で全上場企業を対象にスクリーニングを行った結果、126社が検出された(もちろん、現時点の東洋経済予想をベースにしていることもあり、実際には減益に転落する会社も少なくはないだろう)。誰でも知っている代表的企業を挙げると次のとおり。カカクコム(2371)、ソネット・エムスリー(2413)、ディー・エヌ・エー(2432)、ぐるなび(2440)、エービーシー・マート(2670)、ポイント(2685)、日本風力開発(2766)、ザッパラス(3770)、日医工(4541)、エヌ・ピー・シー(6255)、カプコン(9697)、ニトリ(9843)、ファーストリテイリング(9983)。

さて、126社には幾つかの興味深い特徴がある。
まず、輸出型の製造業は殆ど含まれて居ない。これは昨今の経済情勢を考えれば自明である。二つ目には製造業以外の業種は様々であるが、ニッチ市場をターゲットにしているか、あるいは独自のビジネスモデルを持つ企業が多い。三つ目には圧倒的にファミリー企業(=オーナー型)の比率が高いという点である。126社中88社がファミリー企業に該当する。これは、非ファミリー企業は伝統的産業や大規模製造業に多く分布するため、マクロ経済の影響を強く受けているという面も大きい。しかし、欧米を中心に進むファミリー企業研究においてはファミリー企業に優位性があるという報告が多い。上記に挙げた知名度の高い好業績企業においてもカカクコム、ソネット・エムスリーを除けばファミリー企業である。

まずは諸外国の研究結果を少し紐解いてみよう。
フランスでは、ファミリー企業のROEが25.2%に対して非ファミリー企業が15.8%、ROAでは7.6%対6.1%。スペインでは、ROEで27%対6%、ROAで8.8%対3.3%という研究結果がある。イタリア、フィンランド、スイス等でもファリービジネスの研究が古くから行われている。さて、日本であるが2007年4月に甲南大学の倉科敏材教授と日経ベンチャー誌が銀行を除く東証1・2部企業の単独業績(5期分)を分析した結果、ROAにおいてはファミリー企業1.6%、非ファミリー企業1.0%、ROEでは1.9%対0.2%という調査結果が出ている。ファミリー企業の定義は国によって、研究者によって異なることから単純に比較は出来ないものの、全ての調査結果においてファミリー企業の優位性が示されている。

それでは何故、ファミリー企業は非ファミリー企業に比べて優位性をもつのであろうか。
スペインの研究者ガロ、カピュインスは成功要因をELISA価値と表現している。Excellence(優秀さ)、Labor ethic(労働倫理)、Initiative for innovation(イノベーションへのイニシアチブ)、Simplicity of lifestyle(ライフスタイルの質素さ)、Austerity(緊縮さ)の頭文字をとったものである。

一般的考察でも次のようなことが言えるだろう。ファミリー企業は株主が安定しており、経営者の在任期間が長いことで研究開発など長期にわたる投資が可能であること。意思決定の迅速さ。株主への説明責任の緩和と経営者の経営への集中。フィロソフィーが社内に浸透することによる労働者の定着と結果としての労働コストの低下。

日本ではまだファミリー企業の本格研究は途についたばかりであるが、この数年、主要私立大学においてファミリー企業研究センターの開設が相次いでいる。また、昨年ファミリービジネス学会が発足した。今後の研究においては、経営的な観点はもちろんのこと、新たな投資の視点も提供される可能性が期待される。

なお、スクリーニング結果、126社の中にはマーケットで見落とされている有望企業も多数含んでいるように思われる。もう少し、調査を行った上で別の機会にあらためて紹介したい。
≪参考文献:オーナー企業の研究(倉科敏材編著、中央経済社)≫

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