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アナリストコラム

09/3期は製造業全体で初の最終赤字 -佐藤謙三-

2009年02月13日

09/3期本決算の大半の企業が、3Q(4-12月)業績及び09/3通期業績見通しの発表を終えたが、製造業全体で09/3期の当期利益は初めて赤字に転落する見通しとなっている。しかも期を追って業績が悪化しており、四半期ベースでは4Qに集中して大幅赤字となる予想。サブプライムローンに端を発した金融危機、リーマンショックが起こった08年夏頃までは、「日本はハチに刺されたぐらい」(政策通といわれる与謝野馨経済財政大臣の言)との考えの企業も多かったが、今では「100年に一度の危機」(麻生首相の言)と認識している企業が増えているようだ。

08年の10月頃までの株価下落に相当織り込まれていたためか、09/3期の業績見通しの大幅下方修正のニュースに対する株価の反応は鈍い。しかし、10/3期業績見通しに対して企業側からの具体的な数値公表のある5月頃までは積極的な売買を控えたいと言う考えが、足元の株式売買低迷の要因となっているように思う。10/3期業績に対する不透明感はますます強まっているが、3Q決算説明会やヒアリング等で、10/3期業績の考え方のヒントになったことがあったので2つの例を紹介したい。

担当している大半の素材関連企業(化学、繊維、紙・パ、鉄鋼、非鉄金属、セメント等)も、09/3期業績見通しを下方修正している。しかし、大手自動車や電機メーカーの業績悪化が激しいことから、09/3期の経常利益予想金額では、高炉メーカーのJFEホールディングスが製造業全体の中ではトップ、新日鉄がそれに続く模様。新日鉄も減産幅を拡大しているため、4Q(1-3月)のみでは営業利益以下の利益項目が全て赤字に転落する見通しで決して楽観できる水準ではないが、同社の説明会では、意外にも強気な印象を受けた。09/3期4Qの粗鋼生産を前年同期比4割程度減産する計画であるが、受注反転のタイミングを図り、高炉を再稼動が可能な状態で休止する(バンキングあるいはホットバンキング)と発表。4Qの4割減産は、在庫削減や買い控えなどの要因が大きく、実際の需要減はどの程度かを探っている状況。遅くとも本年の7月頃には足元の減産幅は半分以下になると予想している。一方海外展開については、提携先のブラジルのウジミナス社の株式買い増し、ポスコとの提携強化などの計画を同時に公表するなど強気姿勢が目立つ。鉄鋼メーカーに限らず、09/3期の4Qのような大幅な減産が1年も続けば悲惨なことになるが、四半期ベースでは09/3期4Qの数量が最低水準で、09年下期に掛けて回復に転じると予想している。楽観できない業界もあるかもしれないが、10/3通期の予想販売数量が09/3期4Qの4倍水準まで悪化すると悲観をすることはなさそう。

もう一つの例がDOWAホールディングス。本年1月20日には09/3期の経常利益見通しを220億円の黒字から100億円の赤字に大幅下方修正している。しかも、下期の経常利益は220億円近くの赤字となる見通し。ただ下期の220億円の経常赤字のうち約200億円は在庫評価に絡む一時的な要因。銅などの非鉄金属価格が急落しているため、棚卸評価損を計上しているが、銅価格が現在の水準で推移すれば(需給面では非鉄金属価格は底値圏と判断)10/3期は一転して増益要因となる。

09/3期下期の経常赤字予想220億円は実質ベースでは20億円程度の赤字とも考えられ、販売環境面などで09/3期下期のような厳しい状況がもしも1年間続くとしても、10/3期の経常利益は09/3期下期の経常利益の2倍に相当する40億円の赤字。しかも、業績の下方修正と同時に発表した一連の事業構造改革(給与や人員削減含む)により、10/3期の経常利益は30億円以上の黒字回復は可能と見ている。表面的には、09/3期の100億円の経常赤字から10/3期には30億円以上の黒字に急回復することになる。

10/3期業績を楽観している訳ではないが、人員削減を含む事業構造改革による多大な特別損や、棚卸評価や投資有価証券に絡む損失など一時的かつ特殊要因が09/3期の4Qに集中していることが、製造業全体の当期利益の赤字転落の大きな要因になっている。人員削減を含む事業構造改革を大企業が一斉に実施するため、09年後半の国内の個人消費動向に不安はあるものの、4月下旬から5月中旬に発表される各企業の10/3期業績予想は一般に考えられている程は悪くなく、株価上昇のきっかけになる可能性もあろう。

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