1月下旬、DRAM世界5位(08/7-9月:シェア10%弱)の独キマンダが経営破綻した。同社はシーメンスが半導体部門を99年分離し設立した会社インフィニオンからDRAM事業を06年分社化してできた会社である。DRAM市場は07年以来2年近く低迷が継続、最近は各社キャッシュコスト割れの状態が続きチキンレースの様相を呈していたが、遂に1社が落伍。体力消耗戦はいよいよ最終局面に差し掛かる。近年のDRAM価格低迷の背景には、ウィンドウズビスタの普及拡大などに伴い高いビット成長を見込んだメーカー各社が揃って設備投資に走ったものの、需要が期待したほどには伸びず、供給過剰に陥ったことがある。
DRAM業界は再編の歴史そのものである。80年代には20社以上(日本でも10数社)あったDRAM市場は、合計7割を超えるシェアを持つ日本勢が押さえていたが、日本メーカーは90年代に入り急速にシェアを失った。日米半導体協定の制約の間隙を縫う形で米国マイクロンや韓国サムスン電子等が、最新の生産設備と生産性・技術力の向上を武器に急成長を遂げる。このような環境下、国内勢は90年代半ば以降のDRAM不況もあり事業撤退が相次いだ(98年富士通、01年東芝他)。また、日立製作所とNECが切り離したDRAM事業を統合し、後のエルピーダメモリが誕生。この時点で国内メーカーは1社のみとなり、世界のDRAM供給量に占めるシェアも5%前後にまで落込んでいた。現在は日本の1社の他、世界でも4社(うち1社が前述のキマンダ)の計5社で世界シェアの約85%(他に台湾メーカー3社合計で約12%、それ以外が約3%)を占めるまでに集約化は進展した。
今年に入ってDRAMスポット価格はややリバウンドしている。昨年9月より業界で2割程度の減産を実施した効果が現れつつあると考えられるが、最終製品の需要が伸びない中での反発にも限界があるだろう。今後は更に業界再編、退出が進み、主要プレーヤー数が2?3社に絞られれば、本来あるべき(=公正な競争環境下で適正な利潤を確保できる)姿に回帰できると考えられる。本来ならシェアトップのメーカーがプライスリーダーとなり、需給バランスが大きく悪化しないような行動をとるべきであるが、シェア首位のサムスン電子はむしろアグレッシブな値下げを仕掛けて市場全体の苦境を招いたとの見方もできよう。今後再編が進展し、2番手以下がより力を持てば、将来的により健全な市場になる可能性はある。
一方、最近の新聞等でエルピーダメモリが台湾当局の支援(財務面が脆弱な台湾メーカーへの資金援助)を前提にPowerchipやProMOSとの統合を目指していると伝えられている。台湾はハイテク立国を標榜する立場から、半導体や液晶パネルなど主要ハイテク産業支援の姿勢を見せている。気になるのは、世界的に保護主義、特定の産業支援の動きが広がっている点である。米国では今回の不況前から既に構造問題を抱えていたBig3への資金投入の議論が話題になった。欧州や他の地域でも環境対策自動車の開発目的等で資金援助に乗り出す動きがある。100年に1度の危機といわれるほど環境が厳しい面は否めないものの、単なる保護政策か将来の成長・新分野の開拓に繋がる産業育成か線引きが重要である(同時に難しいところでもあるが)。グローバルで競争を展開している業界にとっては、こうした1国の産業支援は他国の企業の競争力に大きく影響を及ぼすことから、企業を分析するアナリストにとってもその動向は注目される。ここで本題に戻ろう。DRAM業界5強の1社が今回破綻したが、残る4社のうちサムスン電子を除けばどこも資金的に余裕がある訳ではない。DRAMはPCをはじめ家電、携帯電話、自動車に至るまで幅広く使用される重要部品でもある。正常な市場とはいえないほど暴力的な単価下落に襲われる同業界を市場自らの力で適正な競争環境に軌道修正させることは至難の業といえるかもしれない。自由競争経済の限界を示している一例と見ることもできる。DRAM生き残り競争はとうとう最終ステージを迎え、今後の進展が注目だ。