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アナリストコラム

価格転嫁のタイミングや姿勢で明暗分ける素材企業等の業績 -佐藤謙三-

2008年12月12日

担当している素材関連企業(化学、繊維、紙・パ、鉄鋼、非鉄金属、セメント等)や一部食品企業の、今上期及び通期の業績予想の要因を分析すると、原燃料価格が乱高下する状況下で、価格転嫁の姿勢やタイミング、その後の浸透度によって業績の明暗が分かれている。
わが国の場合、原材料価格高は生産性の上昇やコストダウン等によってそれぞれの企業努力で吸収するものだ、という意識が強いのか、欧米と比較すると原材料価格の動きが製品価格に反映にくい傾向があるように思う。それが、わが国の企業の競争力を強くしてきたと考えることもできるかもしれない。但し、今回のように原油価格や非鉄金属価格、穀物価格が短期間で2?3倍になるような状況では、値上げ交渉の巧拙やタイミングが、業績の良し悪しを決定付けることになったようだ。

例えば今期の新日鉄の場合、鉄鉱石や鉄鋼用石炭の主原料の上昇に運賃、非鉄金属、鉄スクラップ等の副資材の上昇分をあわせると1兆円以上のコストアップとなる。同社の経常利益水準の2倍以上。従来と比べると大幅に減少しているといえども、原油消費量の多い紙・パルプ会社も、原材料高によるコストアップは経常利益水準を上回っている。とてもコストダウンや生産性向上でカバーできる水準ではない。そのため両業界とも、危機意識をもって7月までに値上げを推進し、まずまずの成功を収めた。個別企業によっても差はあるが、素材関連企業の中で09/3期に増益を確保あるいは期初予想を上回る見通しとなっているのは上記の鉄鋼と紙・パ業界、逆に期初予想を下回って低迷しているのは繊維、化学、非鉄金属、セメント等の業界。下期に入って各業界とも減産拡大で数量の減少は避けられないが、一方下期から、素材関連事業は原料安メリットを受けている。7月までの原材料価格が高騰している時期に値上げを進めた鉄鋼や紙・パルプ業界の業績は比較的高水準の利益を確保する見通し。

食品業界では、ビール業界と清涼飲料業界の業績は明暗が分かれそう。販売数量では、ビールは3%前後のマイナス、清涼飲料は横ばい程度に止まりそうだが、本年に値上げを実施して販促費を削減したビール事業は増益を確保する見通しに対して、値上げのタイミングを逸した?清涼飲料事業は販促費が増大して利益は低迷しそう。

問題は来年である。原油価格が本年7月にバレル当たり150ドル近くまで1年で3倍に高騰したと思ったら、今度は一転3カ月で40ドル台まで急落。本来ならば、原油価格と連動する理由はないと考えられるような穀物価格等も、現物需給よりも資金需給の影響を大きく受けているためか同時に急落。08年は各業界の値上げが話題となったが、09年は一転して値下げが大きな話題となり、値下げ要求に対する姿勢、タイミング等が0/3期の企業業績の大きな変動要因となりそう。製品価格値下げの大勢を決めかねないのが鉄鋼価格の価格交渉。取り敢えずは、これから下交渉に入る鉄鉱石や鉄鋼用石炭価格の原材料価格交渉が注目される。
鉄鉱石や鉄鋼用石炭価格は、一転して3割以上下落すると言う観測もでており(08年は鉄鉱石が約2倍、鉄鋼用石炭価格は約3倍)、この決定を受けて、09年は鋼材価格の値下げ交渉に入るかもしれない。09年の4月以降になると思われるが、各業界の来期業績を決める大きなイベントのひとつとなろう。
食品業界では、小麦粉価格の動きが注目される。07年から政府の小麦粉価格売渡価格の決定方法が変わり、07年10月には10%、本年4月に30%、10月に10%と上昇しており、各業界は製品価格の値上げを進めてきたが、09年4月には小麦粉は一転値下がりするのは確実な状況。小麦粉の値下げを受けて、パンやラーメン等の製品価格がどうなるかも注目されよう。

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