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アナリストコラム

「次の一歩を」?工作機械業界を生き残るために?

2008年11月14日

現在、機械業界は苦境に立たされている。今2Q累計(4-9月)決算では、工作機械、建設機械、ロボット関連をはじめ、ほぼすべてのメーカーが通期業績を下方修正したといっても過言ではない。主な理由は円高の急速な進行に加え、米国金融危機を発端とした世界景気の後退懸念、そして、クレジットクランチに伴う金融機関の貸し渋りによる中小企業の設備投資減退など。02年頃から新興国需要を牽引役に我が春を謳歌していたが、上記の理由により事業環境は悪化の一途を辿っている。
そんな中、その悪いムードを払拭すべく、11月初めに国際工作機械見本市(JIMTOF)が開催された。今回の入場は私にとって2回目となるが、新技術や製品・引き合いなどを確認すべく足を運んだ。足元で受注環境が急速に悪化している工作機械業界ではあるが、入場者は1回目に訪れた時よりも多く感じた。それはそう、工作機械は日本が世界に冠たる産業へ進化し、ドイツのDMGを除けば世界の大手メーカーはほぼ日本勢が独占するようになったからだ。

工作機械は自動車関連業界を主要顧客とし、電気、一般製造業、金型部品、航空機などすべての製造業が取引先となる。しかしながら、国内の大手メーカーにも得意顧客(得意産業)というものがあり、今回の展示会に関しても各社の出展機種には大きな違いがあった。

初めにゲートを潜った場所には、「森精機製作所」がブースを構えていた。私は一昔前に工場に勤めていたことがあり、その時に使っていた工作機械は同社のものであった。同社は日本の工作機械メーカーとしては歴史が浅いが、大手といわれる「ヤマザキマザック」「オークマ」に追いつかんと、研究開発・アフターケア体制構築を強力に推進し今の地位を確固とした。そのブースでは、NT6600DCGという新型の超大型複合機(旋盤型)が展示されてあった。同社は旋盤(横からの刃物により金属加工を行う機種)というタイプの製造を得意とするメーカーという歴史から、その新型機が出展されていた模様だが、それはY軸移動量(横軸)が±330mm、つまり6メートル近くのパイプなどを加工できるものであった。近年、工作機械の顧客としてエネルギー関連からの引き合いが強くなっているが、この新型は例えば、天然ガスや原油採取のために地上から地中深く設置するパイプなどを製造することが可能である。通常このような長物(パイプなど)を製造するには、土台がしっかりしている(剛性が高い)機械が必要となる(パイプ自体が相当の重量となるため)。そうなると、機械設計は自然に鋼材など原材料の見積もり金額が高くなるのが常であるが、同社は剛性を失わせずに原材料を削減する研究開発を進めた。日本と北米に研究開発部門を設置し24時間体制で研究を行うほどの徹底ぶりだ。油臭く、緩やかな技術進歩しか望めない(私が思っているだけかも知れないが、製品面での差別化は非常に困難である)工作機械業界に革新をもたらした企業である。都合の良いことに、いつも世話になっているIR担当者に出会うことができ、現状の工作機械業界について話を聞くこともできた。「足元は苦しいが、魅力ある製品作りのため、研究開発は継続します。」と力強い言葉だった。

また、次に向かった東芝マシナリー(東芝機械の工作機械事業部)ブースでは門型MC(マシニングセンタ:上方からの刃物により金属加工を行う)型の超大型機が展示されていた。高さ6メートル超、奥行き20メートルと、一目見るだけで圧巻されるほどの大きさだ。実はこの企業、足元で受注環境が悪化する中で唯一、前年同期比を超える実績を保っている。超大型機を得意とすることもあって、航空機業界などからの声が熱い模様だが、この大きさでないと加工できない物も多い。受注残高は順調に積み上がっており、来期からは御殿場第2工場の本格稼働により、売上貢献が見込まれる。また、「オークマ」ブースでも同じ様に、門型MCがあったが、やはり今の注目は超大型機に集まっている。とはいえ、大きければ何でもいいというわけではなく、「オークマ」の門型MCは「サーモフレンドリーコンセプト」を採用している。これは製品差別化の一つであるが、通常鉄などの金属は熱によって膨張する(たとえば、夏の暑い日には鉄道のレールが伸びるといったものだ)。逆に冬の寒い日には金属は縮小する。その伸び縮みは朝夕で変化することになり、機械の動き始めた時には外気が低く、機械が動きなれた時に適温となる現象が起こる。この現象により、特に大型部品では、製造したときは製品精度が出ていても、客先に持っていったときには精度が異なることがある。通常、適温(25度程度)を基準に部品は加工されるのであるが、そのためには機械が動きなれるのを待つ必要がある。もちろんこの対策として年間数億円の電気代をかけ工場内の温度を一定にする装置もあるが、部品メーカーにとってはこの維持費もバカにならない。このサーモフレンドリーコンセプトはその温度差による精度の違いを自動補正するといったすぐれものなのだ。

また、牧野フライス製作所では、ボーイング製造にも採用された横型MCのMAGシリーズを展示していた。同社はMCを得意とし精度の面では非常に好評である。金型加工、及び航空機部品加工といったものに顧客が限定される傾向があるが、日本の工作機械産業をしっかり下支えしている。他にはレーザー・パンチ加工機のアマダ、半導体部品製造・自動車部品向け研削盤のツガミなど今回紹介できなかった企業も各々の特徴を備えているほか、海外メーカーも多く出展しており、アマダとの競合他社であるTRUMP、前述のドイツメーカーDMGなど確かに技術の面では日本勢と引けを取らない印象だった。

ただ、先日(社)日本工作機械工業会が発表した08年10月の工作機械受注(速報値)は、受注総額810億円(前年同月比40.4%減)と5カ月連続の前年割れとなったほか、1,000億円の大台を大きく下回った。11月受注はJIMTOFの貢献が幾分みられようが、当面はやはり非常に厳しい環境が見込まれる。そのため、この紹介したメーカーの中、またそれ以外にも体力が持たずこの業界から転落するといった企業も出てくるかも知れない。製品差別化が難しくなる中、私は今後この工作機械業界においてもM&Aが起こる可能性は高いと考えている(建設機械業界の雄「コマツ」が中堅工作機械メーカーの日平トヤマを買収した様に)。そのため、研究開発を継続するといった他、海外でのアフターケア体制の充実など生き残る企業に課せられるものは多くなり、長期的視点からの戦略がより一層求められる。今、国内外のメーカーを含めた熾烈な生き残りの戦いの幕は開いたのかも知れない。

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