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アナリストコラム

「投資力」の育成は”ビジネススキル”関連書籍にヒントがある?! -藤根靖晃-

2008年10月24日

金融危機は一応の回避がなされたものの株式市場の波乱が終わらない。世界景気の悪化を織り込んでいる段階なのだろう。米国においては3Q決算、大統領選、大規模な財政出動、日本においても来週から本格化する2Q決算、年末解散説もある衆議院選挙、米欧の景気悪化と利下げによる円高懸念が当面は不安材料となってマーケットを撹乱するのだろう。

最近、投資教育について考えている。社内の教育・トレーニングという面もあるが、アナリストには週1冊の読書を最低限義務づけている。人に課す以上、自分自身はそれよりも読まなければならないのだが…その中で意外と投資アイディアの参考になるのが投資理論や投資指南書よりもビジネススキル関係の本である(もちろん、投資初心者は株式投資の入門書をまず読むべきであろう)。

ここのところ読んだ本の中では「いま、すぐはじめる地頭力」(細谷功:大和書房)が特筆される。以下、同書のポイントを抜粋しつつ、説明する。”頭がいい”とはどういうことか? 大きくは「知識が豊富」、「対人感性が高い」、「思考能力が高い」の3つに分類される。従来型の日本の教育(=詰め込み式)では、「知識が豊富」であることが頭の良い第一の要件であった。それは情報を集めるためには膨大な労力が必要であったからである。しかし、インターネットの普及によって全ての人が簡単に情報にアクセスできるようになったことにより、自分なりのユニークな視点を提供できなければ付加価値がない。そうすると差別化のためには「思考能力」(=「地頭力」)が重要となってくる。著者は、「地頭力」の構成要素を三層構造から成ると定義している。第一層は「知的好奇心」(モチベーションの原動力)、第二層は「論理思考力」と「直観力」の二つ。第三層は「仮説思考力」(結論から考える)、「フレームワーク思考力」(全体から考える)、「抽象化思考力」(単純に考える)の3つ。同書では、第三層の3つを詳細説明するとともにそれを鍛える方法について示唆している。

ここで、何故これが投資に役立つかについて私の考えを述べておく。
「仮説思考力」は、”もしも”をどれだけ考えられるかである。もし製品発売が遅れたら? もし為替が円高になったら? もし原油価格があがったら? もし政府が規制緩和を行ったら? もし○○社と資本提携をおこなったら? もし主力メンバーが抜けてしまったら?きりがないのでこの辺にしますが、常に”もしも”、”何故”と仮説を考える習慣が肝要である。「フレームワーク思考力」、これは企業・産業分析において、企業単体(あるいは単一事業)で見るのでなく、垂直・水平の産業構造、力学、技術革新のスピード、代替可能性などを考える思考である。「抽象化思考力」企業が勿体つけて説明しているものを単純化して理解する方法である。”業務アプリケーション開発支援とか言っているけど平たく言えば人材派遣でしょ!””商品開発力って言っているけど、新卒社員でも直ぐ営業できるようにパッケージ化しただけじゃん!””同社の生産ネットワークって、下請けを競わせて叩く方法だよね!”こうした見解はなかなかアナリストレポートにそのまま書くわけにはいかないが(微妙な表現力が求められます)、悪口になるくらいのほうが、本質を単純化しているとも言える。

さて、インターネット(オンライン証券)の普及は、情報面において専門家と個人投資家との差を大きく縮めた。情報の優位性だけに依存していてはアナリストも生き残れない時代になっている。また、これからの時代は戦後日本の成功パターンが通用しなくなる局面が多くなるかもしれないし、資本主義自体が大きな変革の時を迎えているのかもしれない。「考える力」を身につけた投資家だけが生き残れる(=投資に勝つ)時代に入ったのかもしれません。(了)

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