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アナリストコラム

1987年10月のブラックマンデーとの違い -佐藤謙三-

2008年10月17日

サブプライムローン問題に端を発して世界各国の株価が日々乱高下、10月16日の日経ダウ平均の下落率が11.4%と、1987年10月のブラックマンデーの下落率14.9%に次ぐ第2位の記録となりました。NYダウ平均も、1987年のブラックマンデー以来、あるいは1929年の大恐慌以来の騰落率という記録が散見されるようになっています。今回はアナリストコラムとしては異質ながら、1987年ブラックマンデー当時現場にいた時の記憶を探りながら、今回とブラックマンデー当時との違いを思いつくままに記述したいと思います。詳細なデータに基づいた分析は、エコノミスト、ストラジスト、テクニカルアナリストの方々がやってくれると思いますので、単なる感想として気軽に読んで下さい。

1987年10月19日、NYダウ平均が前日の2,246ドルから1,738ドルに508ドル、22.6%もの急落となりました。それまでの記録、1929年の「暗黒の木曜日」の下落率を一気に上回った大幅な下落です。次の日の10月20日にその影響を受け、日経ダウ平均が25,746円から21,910円に3,836円、14.9%もの急落となりました。この一連の世界株価の急落がブラックマンデーと呼ばれています。日経ダウ平均の約15%下落というのは、値幅制限がありますから、おそらく8割以上の株価が制限幅上限の下げ(ストップ安)になっていたのではないでしょうか(調べたわけではないので、記憶違いかもしれません)。
大量の売り物を残していたはずなのに、一転して翌日は大半の銘柄が買い気配で始まり、その日の日経ダウ平均は一転して大幅高となり、ブラックマンデーは短期間で落ち着きました。実体経済に悪影響を与えることなく、日経ダウ平均は数ヵ月後には高値を奪回、その後、1989年12月には4万円直前まで上昇しました。

ブラックマンデーのショックが短期間で収束したのは、実態から見て株価水準が安いと感じていた訳ではなかったと記憶しています。ブラックマンデー当時の株価水準は、PERが40?50倍、PBR4倍程度、配当利回り0.5%程度。いかに金余りといえども、またその当時の成長率から見ても、明らかに高い水準です。現在は、PER10倍、PBR1倍、配当利回り2.5%程度です。実態経済に影響するからブラックマンデー当時より現在の株価の下げの方が厳しいと言う見方をする人が多いようですが、それはブラックマンデーが短期間で収束したからの結果論であり、わが国に限って言えば、現在の株価水準の方がブラックマンデー当時よりはるかに割安だと言えるでしょう。

ブラックマンデー当時との違いで気になるのは、その当時は外国人投資家の持株比率が4%程度、委託売買高に占める比率も10?15%程度でしたが、現在は、外国人持株比率は20%を超え、委託売買高に占める比率は6割程度になっています。よく言えばわが国の証券市場の国際化、グローバル化が進んでいると言えるのでしょう。しかし今回のように海外発の株価急落で、おそらく外国人投資家の換金売りが日本株の下げを加速させていると想像されますが、外国人投資家の売買が半分を超える状況下では、外国人投資家に大きく左右されざるを得ない状況になります。PERや配当利回り等の株価指標面で株価がどんなに安くても、ファンドの解約があれば売却せざるを得ません。まず株式先物等でヘッジして、現物株を売却する方法をとるでしょうから、売りが売りを呼ぶ状況になりがちです。最終的に良かったかどうかはともかく、1987年当時の日本の株価がいち早く立ち直ったのは、国内投資家(特に金融法人や事業法人)に外国人投資家の売りを全て吸収するだけの力があったからでしょう。その点は、現在の方が不安です。しっかりとした国内個人投資家の育成が急務です。

最先端の金融商品の影響が大きくなっているのも、その当時との違いでしょう。ブラックマンデー当時は、ようやくわが国に先物市場が立ち上がりつつあった状況ですが、現在は複雑化しています。最先端の金融商品の売買に携わっている人でもどれだけ本当に理解しているのか、と不安が根強いことも、今回の株価立ち直りが鈍い要因とも考えられます。

ブラックマンデーの時は、早急に資金を供給することで、実体経済に影響を与えることなく収束させることが出来たのでしょう。しかし今回の一連の資金供給策等の市場の反応をみていると、資金を単に供給するだけでは効果が限定的で、実体経済とマネー経済とのアンバランスに対する根本的な政策が求められているのかもしれないと考えています。

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