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アナリストコラム

世界的な激震の中、日本の電機業界に新しい風 -服部隆生-

2008年10月10日

米国金融危機の激震の世界経済・消費動向へ与える影響が不安視される環境下、10月1日筆者の担当する電機業界でも新たな一歩が始まった。一つは松下電器産業からパナソニックへの社名変更であり、もう一つは日本ビクターとケンウッドの経営統合(JVC・ケンウッド・ホールディングスの誕生)である。前者については、筆者も実は大学4年の就職活動で松下電器貿易(後に親会社と合併)から内定をもらっていただけに愛着のある会社であり、時代の節目を感じる。一方、ビクターは高い技術を持ちながらも競合の厳しいAV家電業界で競争優位になかなか立てない状況が続いていた。PDPの自社生産からの撤退を決めたパイオニアを含め中堅メーカーの苦境を反映した展開といえるだろう。

パナソニックの場合、80年以上前から日本経済の発展を支え国民に浸透していた「ナショナル」ブランドを廃止することが苦渋の決断だったことは容易に想像できる。しかし、最近のブランド評価会社による世界のグローバルブランドランキングでSamsungの21位やSonyの25位に対しPanasonicは78位に留まるなどブランド浸透がなかなか進んでいないのも事実であり、ブランド統一は世界に向けたブランド向上の意気込みを示すものといえる。ソニーは丁度50年前の1958年東京通信工業から、シャープは1970年に早川電機工業から各々現在の社名に変更している。パナソニックの場合この2社に比べ変更に時間がかかったのは、やはり松下幸之助氏の偉大さも影響しているのだろう。同社は中村前社長の時代に事業部制の解体を含めた抜本的な事業構造改革に取り組み、収益力は目覚しい回復を遂げた。デジタルカメラなど後発にも関わらず、商品力を強化することでシェアを着実に伸ばしてきた製品も多い。デバイスの内製化などグループの総合力を活かし、商品力・収益性の向上を実現している。

ただ、世界市場を見ると、薄型テレビで2桁の世界シェア(台数ベース)を持つのは、サムスン電子、ソニー、LG電子の上位3社のみである他、携帯電話もノキア、サムスン電子、モトローラ、LG電子の上位4社で市場全体の3/4近くを占める(台数ベース)。パナソニックは海外売上比率がまだ半分程度であり、今後海外でのプレゼンス拡大余地は非常に大きい。構造改革を完了し、着実に高まりつつある商品力を武器に満を持して世界に打って出る。重点市場と位置づけるBRICs+ベトナムでは「EM(Emerging Market)-WIN」と銘打って地域の消費者ニーズを汲み取った独自仕様の製品群を展開すると共に、顧客ターゲットを富裕層の一段階下の中間所得層(next rich)まで拡げている。こうした顧客層は購買力を飛躍的に高めつつあり、将来の潜在成長ポテンシャルは高度成長期の日本を遥かに凌ぐと考えられ、ここでの成否は同社の今後の収益成長に大きく影響を与えるだろう。新興国での戦略的拡販だけでなく欧州でも白物家電に本格参入するなど、全世界でPanasonic製品の販売を伸ばす考えで、最近の一連の海外展開の動きを見ると同社の本気度が伝わってくる。

これからいよいよ年末商戦を迎えるが、今年は例年になく厳しい商戦となりそうだ。しかし、こういう時こそ、短期的な業績変動に目を奪われることなく、中長期的視座に立って着実に前進している企業は注目しておくべきだろう。厳しい時期はまた同時にチャンスでもある。パナソニックの掲げる「10年後の創業100周年に電機世界一」の目標は極めて高いハードルながら、達成は地道な努力の積み重ねにあると考えられる。今回Panasonicへのブランド統一を機に、真のグローバルエクセレンスへの飛躍を期待したい。

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