不動産業界では7月、8月とゼファーやアーバンコーポレイションなどの大型破綻が相次いだ。そのほとんどが資金繰り破綻であり、金融庁もこうした異常事態を看過できず、従来の方針を転換し、メガバンクに対して不動産融資を促すような指導を行ったようである。その証左として、サンシティ(8910)の例が挙げられる。サンシティはみずほ銀行を主幹事とするシンジケートローン36億円がコベナンツ(財務制限条項)に抵触し、期限の利益を喪失する(一括返済を請求される)危機にあったが、9月5日に不動産担保の提供を条件に期限の利益喪失は猶予された。みずほ銀行は、スルガコーポレーションやアーバンコーポレイションの破綻の引金を引いたとされており(「みずほショック」と呼ばれる)、不動産などの問題企業に対する融資に対し最も合理的な(借り手にとっては血も涙もない)姿勢をとってきた銀行である。サンシティは9月9日に運転資金として三井住友銀行から20億円を調達することができた。このように、9月に入って不動産会社のリファイナンス環境はかなり好転し、大きな資金繰り破綻は一服。異常な緊張感から解放された感があった。
9月8日には京都駅南口の再開発に行き詰るなど破綻寸前だったジョイント・コーポレーション(8874)の総額100億円の第三者割当増資をオリックスが引受けると発表。オリックス(8591)は純投資としている。不動産の流動性が極端に低下している中、実物不動産にしろ不動産保有会社にしろ、大きなディールが成立したことは不動産業界のセンチメントを明るくする。デットの調達環境の好転と相まって、「9月危機」から一転、不動産業界のモメンタムは好転するように思われた。徹底的に売り込まれていた新興不動産の株価も急速に回復に向かっていた。
その矢先の急転直下のリーマン・ブラザーズのチャプター11申請で明るい雰囲気は吹き飛んでしまった。これまでに発表されている国内金融機関のリーマンに対するエクスポージャーは限定的であり、リーマン破綻による直接の損害はたいした金額ではない。とはいえ、米国の金融危機が想像以上に深刻であることが再確認され、国内金融機関の不動産融資姿勢に悪い影響を与えないか懸念される。完全に機能を停止しているCMBS市場の回復も一段と遠のいたといえよう。今回の金融危機の本質を一般の人が理解することは難しいが、漠然とした不安感は個人の住宅購入意欲を一層冷え込ませるとみられ、マンションディベロッパーは益々もって厳しい。
救いは、重大な流動性危機に直面していた世界最大の保険会社AIGの公的救済が決まり、クレジット市場の崩壊だけは回避できたことだ。金融危機の根源は、米住宅価格の下落にある。大統領選による政治空白により、当面は有効な政策を期待できない。オバマが勝利し民主党政権になって住宅ローンの借り手に有利な政策がとられれば、証券化商品の投資家や、それを保証しているモノラインなどの保険会社にとってマイナスとなる恐れもある。金融不安の沈静化には相当な時間を要しそうであり、新興不動産会社の試練は続こう。