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アナリストコラム

海外大手との収益性格差の背景にあるものは? -服部隆生-

2008年08月15日

エジソンが白熱電球や発電機を発明してから130年近く経とうとしているが、現在の主要な電機大手メーカーの歴史もその画期的な発明後間もない1890年頃に遡ることができる。1890年には東芝の前身の一つである白熱舎が設立されているが、1891年にはオランダのPhilipsが炭素フィラメント電球のメーカーとしてスタート。米国では1892年エジソン電灯会社(1880年設立)ともう1社が合併しGE(General Electric)が生まれた。電灯の急速な普及により発電需要が高まり、発電・送変電など電力を供給する為のインフラが発達。次に家庭に電気が行き渡ると、電気を使った様々なアプリケーション、即ち家電製品が次々と誕生。通信や映像技術の進化も後押しする形で、日米欧それぞれの地域を代表する総合電機メーカーが事業ドメインを拡げ、発展していくことになる。

このように総合型電機大手メーカーの発展してきた歴史的背景は似ているものの、現在各社の収益性には大きな格差が見られる。例えば、GEとPhilipsの昨年度営業利益率は10%台後半であるが、国内勢で相対的に高い三菱電機や松下電器産業の5?6%台と比べても差は歴然としている。売上規模でGEは我が国電機セクターで最大の日立製作所の1.6倍程度ながら、株式時価総額は10倍以上の大差をつけられている。また、売上で日立の半分以下のPhilipsは時価総額では逆に日立より1兆円近く多いという状況だ。将来の収益見通しの違いが株式市場での評価にも影響を及ぼしている訳だ。どんな会社を目指したいのかという長期的な経営ビジョン、信頼できる経営陣と迅速な意思決定の有無などがこうした収益性格差の背景にあると筆者は考えている。日本勢は総じて横並びで、場当たり的でもあり、長期的な経営センスが欠如しているとの指摘もできよう。端的には「戦略不在」とも言えるだろう。選択と集中を掲げながらも、高成長分野という理由から競争の激しい分野(しかも低採算)でも事業を続ける傾向がある。社長の在任期間の短い中、長期的にどの分野を育てていきたいのか、どこで儲けていきたいのかなかなか伝わってこない。以前「失敗の本質」という本を読んだが、これは太平洋戦争における日本軍敗退の要因を組織論的立場から分析・検証したものである。そこには日本軍の傾向として、場当たり的(長期的な視座の欠落)、全体の方向性も明確でなく曖昧な指示(コミュニケーション不足)、客観的事実の冷静な分析能力の欠如、状況の変化に素早くかつ適切に対応する能力の無さなどが書かれていたと記憶しているが、これらが日本メーカーとダブって見えるのは筆者だけであろうか?

GEはインフラ、産業、金融、医療、放送の各部門が10%台後半の高い営業利益率を記録しているが、世界シェア1?2位の製品群で固め、GDP成長の2?3倍の収益成長率を維持できるよう絶えず事業ポートフォリオを見直すという明確な意思を持っている。実際2002年以降だけでも5兆円を超える事業を売却した一方、8兆円以上の事業を新たに買収、特に風力発電などの再生可能エネルギー分野、水関連分野等を積極的に強化している。最近では創業の照明を含めた家電事業の分離の方向性を打ち出すなど、環境の変化への対応も素早い。一方、Philipsも照明、家電(主に小型の生活家電)、医療の3分野に経営資源を集中し、脱・総合電機の姿勢を明確に示している。デザイン、使いやすさ、先進性をビジョンとして掲げ、洗練されたイメージの定着と高い収益性を両立させている。翻って日本勢はどうか民生電機大手(ソニーと松下)は構造改革を完了し、産業電機大手でも独自色を出しつつある企業はあるが、まだ全般的にはようやくスタートラインに着いたばかりといえるだろう。今後10?20年先は全く違った風景が見えるかもしれない。業界再編やM&Aにより、欧米大手と対抗しうる有力メーカーが誕生している可能性もある一方で、ますます格差が開いた後に、グローバル市場から忘れ去られてしまう懸念も残る。

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