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アナリストコラム

鉄の腕と不恰好な姿

2008年07月18日

あれは一体何だろう。銀色の構造物の横に立ち、指先から白や青の光を吐き出す鉄の腕。それも一つではなく、いくつもが並び一斉に光を吐き出す。次々と流れ来る銀色の構造物に瞬時に近づいては、離れてゆく。そう、自動車生産における溶接ロボットである。人間よりもやや大きなガタイを持ったその腕は日々、光を放ち日本の自動車産業に輝きを与える。

あれは一体何だ。人間ではないが、人間のようにも見える。湯煙のたった湯呑をお盆の上に乗せ、来客者に挨拶をしたではないか。膝を軽く曲げた不恰好な姿とは裏腹に、軽快なステップを踏む様子は見る者を笑顔にさせる。ホンダ(7267)が誇る人型ロボット「ASIMO」である。

(社)日本ロボット工業会の発表した07年のマニピュレータ、ロボット総出荷額(会員ベース)は5,850億円となり、前年比で5%増と若干伸長した。その約90%以上は、1つ目に挙げた自動車溶接用や電子部品の組立や実装などに使われる産業用ロボットである。

溶接ロボット出荷額では、国内が507億円(前年比8%減)、輸出585億円(同31%増)となり、新興国において自動車産業向けが伸長した。溶接ロボットは自動車車体の両端に設置された後、プログラミングを通じて溶接工程を行う。業界トップクラスの安川電機(6506)はダイハツ工業(7262)が07年12月に設立した大分第2工場の生産ラインに、26台ものロボットを上中下と立体的に設置し、溶接工程を担わせた。それらの溶接ロボットは車体を取り囲み、各々が衝突しないよう瞬時に移動する。溶接工程が終われば衝突しないよう元の位置に戻る。26人の人間では到底出来そうにない工程を効率よく、そして正確に行う。

一方、2つ目の業務・民生用といわれるロボットの出荷額(同)は国内が165億円(前年比13%増)、輸出が107億円(同10%減)とまだまだ市場規模は小さく、構成比でも約5%弱の市場だ。ただ、この業務・民生用ロボットに今大きな注目が集まっている。

トヨタ自動車(7203)では、昨年12月に「トヨタグローバルビジョン2020」を策定し、パートナーロボット開発に乗り出す。08年からは同社内や病院、商業施設で実用トライアルを行い、今後のユーザーニーズを見極める考えだ。また、本業の自動車生産の技術を活かし、近距離のパーソナル移動支援ロボットを開発している。椅子に車輪を二つ付けた様なそのロボットはモビリティロボットといわれ、1時間の充電で約20kmの走行が可能とのこと。

警備事業を中心にセキュリティビジネスの拡大を図るセコム(9735)は屋外でも活動可能な警備ロボット「セコムロボットX」を長期レンタルで販売する方針を固めた。上記ロボットは、事前に決められたルートを自動走行できることから、博物館や企業ビルなどでの採用に注目が集まっている。

三菱重工業(7011)では、案内・サービスロボットの「wakamaru(ワカマル)」を家庭用に再参入させる。彼はイベント会場などで来場客と対話し、案内を行う。周囲の障害物を検知し回避行動を行う上、警備機能も兼ね備えている。05年には購入予約が10数台に留まったため、発売は中断されたが、三菱重工業は家庭用市場への参入をあきらめてはいない。

確かにアストロボーイ「鉄腕アトム」は2003年4月7日、彼の誕生日に目を開くことが出来なかった。しかしそんな中でも、日本人のロボットにかける情熱は次々とイノベーションを生み出している。もちろん企業にとって、業務・民生用ロボットの市場規模では十分な収益を生み出すことは難しく、研究開発費用が重石となる。ただし、その研究開発には各産業のトップ技術が集結しており、「技術力の塊」であることは疑いようがない。

世界をリードする日本の産業用ロボットだが、業務・民生用のサービスロボット市場もいつか急拡大する時が必ず来るだろう。「ロボットが医師となり、人間の病状を診査する」そんな未来が来る日は遠くないのかも知れない。

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