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アナリストコラム

現場主義

2008年05月30日

現在、建設機械業界は活況を呈している。新興国のインフラ整備に加えて、資源高を背景とした鉱山開発など様々な場所で建設機械は使われ、最近では無人の機械稼動管理システムなどの機能も搭載されるようになった。油圧ショベルやホイールローダーを始め様々な種類の建設機械があるが、読者の方々も名前はわからなくとも、一度は道路を走っている建設機械などをご覧になった経験はおありだろう。最近は少なくなったが、乗り物好きの子供たちへブルドーザー型ラジコンのプレゼントなどもよく見られた光景だった。しかし、「工作機械」といわれて姿、形、機能、メーカーなどすぐに思いつく方は、建設機械よりは少ないと思われる。今回は実務を踏まえながら、工作機械についてご紹介したい。

工作機械は金属類(鋼鉄、ステンレス、アルミニウム)やプラスチックなどの材料を切削、研削、溶解、折り曲げなどの方法で加工し、金属類製品を製造する機械である。消費者の目に触れる機会は少ないものの、自動車部品を始め、航空機部品、金型など工業製品、産業機械などを製造するため、「機械を作る機械」、「機械の母(マザーマシン)」とも呼ばれる。下町を歩くと点々と油のにおいがする地区があるが、そこには必ずと言ってよいほど、工作機械が活躍している。

工作機械は加工方法により旋盤、マシニングセンタ、放電加工機など建設機械同様に様々な種類がある。今回は特に工作機械の基礎となる旋盤について説明したい。旋盤は、金属類の材料自体を回転させ、それに刃物工具を当てて切削し製品に仕上げる。簡単に言えば、「りんごの皮むき」がわかりやすいだろう。ナイフをりんごの形状に沿わせて動かしてゆくというよりも、りんごを回転させてナイフを当てる。これを金属材料と刃物工具(加工する金属材料より硬い素材)で行っている。しかしその回転自体は1分間に何千を超え、加工時には熱が発生するため、クーラント(切削油、冷却油)で冷却しながらの作業となる。とはいえ、飛んでくる切り子(切り屑)など、熱いものは熱い。簡単に作業着を溶かし目にでも入れば、半日は目を開けていられない時もあった。

ただ、1950年代には工作機械にCNC(NC)装置が搭載され始め、自動化と安全性の確保、生産性の向上が図られた。いわゆるNC機の登場である。切り子飛散を防ぐため周りを鉄板で囲い、今までは手動で行っていた刃物工具の交換を自動化できるように改善された。

筆者が親族の工場に勤めていた頃は、原子力発電所関連のロボット部品などを製造することが多かった。それは、人型ではないが人間の入ることができない場所へ入り、関連施設にヒビや変形箇所がないか調べるものだった。その頃使っていた工作機械は15年ほど前のやや古いタイプの機械だったが、十分に顧客の要求する精度に応えることが出来たため、15年たっても要求精度に応えられる機械はすばらしい、と感じたものだった。

しかしながらある日、顧客と共にマレーシアからの金属製品が届く。「マレーシアで作らせたが、重要な場所の精度が出ていない。そこだけを早急に追加加工してくれ」というもの。もちろん特急の特注品は利益率が高く、仕事は引き受けることとなったが・・・精度が粗いとはいえ、かなり複雑な構造の製品だった。「これをマレーシアで作れるのか?」。筆者の最初の感想は驚嘆となった。顧客に詳しく聞くと、日本製の工作機械をマレーシアの工場に大量設置しており、最新設備が揃っているということ・・・。「最新の日本製工作機械は機能が格段に上昇している。このままの古い機械での生産では加工時間に大幅な差がつく」と初めて感じた瞬間だった。

現在工作機械メーカーは、NC旋盤やマシニングセンタなどを融合させた複合機を製造、販売している。その他チタンなどといった難削材の加工に適したマシンの開発なども進めている。精度ではドイツ勢に後塵を拝している模様ではあるが、顧客の生産性の向上、安全性確保のため、日々進化を繰り返している。日本の受注額は現在世界トップを維持しているが、これからも工作機械の更なる発展を願っている。なにより「ものづくり大国日本」を支える土台なのだから。

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